知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

目配りの範囲

金曜に月一のエンドレス会議で座りっぱなしだったあげく、日曜は一日オケの練習でまたしても座りっぱなし。おまえは腰を治す気があるのか?と怒鳴られそうな暮らしぶりである。仕方がなく治療の頻度を隔週から隔日に上げてみた。くすん。それでも仕事はするってなんなの>自分

さて、私の疑問に対するdtkさんのお返事エントリ第2弾も頂いている(キャッチボールである以上は))。こちらがが私の質問への直接の回答となっている。前回のエントリで書いたとおり、この手の話は、(a)自分がどうしているか、(b)組織としてどう回すか(仕組み化するか)、(c)スキルとして身につけさせるにはどうしたらよいか(育成)という観点があり、ともするとごっちゃになりがちなので、切り分ける必要がある。

dtkさんの記事の中に、

契約書は、リスク管理のための道具としては、「いくつかある手段のうちの一つ」でしかないし、想定されるリスクへの対処法として、契約書の規定でカバーするということが常に最良の方法とは限らない。ビジネス全体でカバーできれば(この辺はBLJの5月号にも記載があったけど)、結果的にOkなはず。契約でどこまでのリスクをカバーするのか、カバーしないのか(その他の方法でカバーするのか)、サプライチェーンも含めた取引の全体像の中での契約書の立ち位置についての理解を共有しておく

という記載がある。ということは、前提として、この契約でどこまでカバーするのか・取引全体の中での契約書の立ち位置については依頼者側で把握し、その情報をレビュー者に提供すべきということなのだろう。

あえて言えば、私の関心は、このような契約書の立ち位置についての前提情報(これは、取引や業界事情などについての生の情報(一次情報)自体ではなく、一次情報を有機的に勘案して得られる二次情報の筈)を、契約のレビューを行う者(アウトソース先であったり、社内の法務部門であったり)にインプットする(要は、生情報を有機的に組み合わせることを行う)のは誰か(その機能はどこが持つべきなのか)、そのような、一次情報を二次情報に昇華させるスキルはどうやったら身につくのか、スキルのない者が一定レベルをこなすための標準的な手法はあるのか、というところにある(もちろん、契約法務に限らないが)。

このような二次情報(レビューに際しての前提情報)を勘案してレビューを行うということは、いわゆる『法的あてはめ』ではないだろう。一次情報は、前提となる事実であるにしても、一次情報の十分なインプットがありさえすれば、『無駄に拘ったレビュー』が出てくるのが防がれるわけではない。

dtkさんの書きぶりからすると、法律事務所は、このような一次/二次情報があれば、的確な『法的あてはめ』をしたレビューを出すことはできるけれど、二次情報を作り出すところまでは期待されていない、ということだと推測する。とすれば、アウトソーシングの依頼元としての社内法務部門の役割はそこにあるのか??

しかし、たとえば実際の取引をおこなう事業部門に、生情報に加えて上記の有機的全体情報を整理して法律事務所に提供できるだけのリテラシーがあれば、事業部門から法律事務所に直接依頼することもできるだろうし、逆に、法律事務所の側でそのような情報を引き出すだけのスキルがあれば、別に依頼者側に大してスキルがなくても明後日の方向を向いたレビューが出てくるようなこともないだろう。

実際にアウトソーシングをする現場になれば、依頼者側の依頼スキルが高いラインからアウトソーシングを受ける側の受託スキルが高いラインまで、色々なパターンがあり得るのだろうけれど、そこのマッチングが互いに可視化されて取れていないと、うまく運ばないのだろうという気がする。言い替えれば、依頼に対して、誰が、どこまで目配りするのか、という合意が重要、ということだろうか。もちろん、担当者の育成教育という観点からは、常に最大限目配りできるようなスキルを身につけさせることが重要なのだけれど、仕組みとして回すとなれば、どこがどの機能を担うのかについての合意は必須だと思う。

知財機能のアウトソーシングについては、法務と違うと感じている点も色々あり、またこれについては別途。dtkさんも言われるとおり、tacさんの本気エントリも待ちたい気もするし。

追記|旧ブログのコメントに頂いたもの

49:No title by dtk on 2011/03/23 at 00:03:43
いつもながらの鋭い指摘をありがとうございます。
お返事をしたいところですが、多少考えてからと思いつつ、数点取り急ぎ、気が付いたところをコメントさせていただくとすると、
(1)ご指摘の二次情報は社内の誰かがインプットすることになるとは思います。価値判断というかビジネス判断が入るので、社内の誰かがする必要はあると思いますが、それが「法務」でなければならないということは無いような気がします。「事業部」でできるのなら、それもありかと思います。
(2)ご指摘の「目配り」は必要だと思いますが、どこのセクションで、という「決め」は難しいような気がします。そのセクションに常にそういうことができる人がいるという保証はないというか、そういう目配りができる人というのをどのように要請するか、ということ自体が一つの論点のような気がします。

それでは。