知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

改正特許法施行前セミナー:再審制限

改正特許法施行前セミナー第4弾にして最後、にしようと思ったのだが、長くなったのでこの項は2分割。

本セミナーは、4つに分けてなされたのだが、この最終講演が最も面白かった。なにしろ講師の元裁判官某弁護士のぶっちゃけトークが・・・。

さて、再審制限の話。
ちなみに、これについては、改正法の大項目の一つと言うことで、先日若手君が質問に来たのだが、そもそもの『再審』と『確定』の定義が分かっていないことが判明してぐったりしたことがあった。とはいえ、法律系でない場合、裁判上の常識?である、処分が「確定する」というのはどういうことなのか、それを例外的に再度審理する場合があるのはなぜなのか、その重みを理解するのは中々難しいのかもしれない。しかし、しょっちゅう拒絶査定とか不服審判とか確定とかやってるんだから、ぼんやり聞いてないで意味をちゃんと考えてくれ〜、と言いたかった。。。

特許法の再審に関する条文は171条

第百七十一条  確定審決に対しては、当事者又は参加人は、再審を請求することができる。
2  民事訴訟法第三百三十八条第一項 及び第二項 並びに第三百三十九条 (再審の事由)の規定は、前項の再審の請求に準用する。

ということで、民事訴訟法338条

第三百三十八条  次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三  法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
四  判決に関与した裁判官が事件について職務に関する罪を犯したこと。
五  刑事上罰すべき他人の行為により、自白をするに至ったこと又は判決に影響を及ぼすべき攻撃若しくは防御の方法を提出することを妨げられたこと。
六  判決の証拠となった文書その他の物件が偽造又は変造されたものであったこと。
七  証人、鑑定人、通訳人又は宣誓した当事者若しくは法定代理人の虚偽の陳述が判決の証拠となったこと。
八  判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
九  判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと。
十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。

特許侵害訴訟において差止・損害賠償を認容する判決の後、特許無効審判が確定した場合、上記8号の『判決の基礎となった行政処分の変更』に該当するため、再審事由となる。しかし、104条の3が導入されたことで、侵害訴訟時に無効主張できたのにそれを十分にせず、あとから無効審判を(何度でも無効になるまで)提起して無効審決を得、それによって再審を行うというのはどうなのよ、という問題。紛争が長期化し、資金力勝負になってしまう感があり、社会経済活動の安定性を害する、というヤツですな。

ということで、改正法104条の4

(主張の制限)
第百四条の四  特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該審決が確定したことを主張することができない。
一  当該特許を無効にすべき旨の審決
二  当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三  当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決であつて政令で定めるもの

今回怖いのは、経過規定で施行日以降に提起する『再審等』に適用となっていることで、現在裁判所に継続中の侵害訴訟に対しても適用される、というところ。特許無効の抗弁・訂正の再抗弁の要否は改めて要検討事項となる。

そして、講師によれば、今後の裁判実務では、特許庁での無効審判の動向を気にせず、どんどん侵害訴訟の進行をするような運用になるのではないか、とのこと。これまでは、無効審判がなされていたら、それなりに気にして期日の設定をしたりされていたわけだが、再審があり得ないと言うことになれば、待つ必要がなくなる。また、無効審判にしても、侵害訴訟にずっと遅れて審決が出ても価値がないので、取り下げにつながるのではないか、とのこと。これまでは、侵害訴訟であらそい、無効審判で争い、両方から上訴されて知財高裁で同じ部で審理、という運用がされていたところ、無効審判側は気にしなくてもよくなるだろう、という予想である。

それでも被疑侵害者側としては無効審判を請求する実益があるかと言えば、これはもう訂正審判でなく無効審判内での訂正請求に限らせるという意味しかないということになるか。また、裁判所では無効の抗弁と言ってもあまりあるだけ並べるといやがられるので、強いところにしぼり、特許庁相手の無効審判ではあり得る無効理由を並べ立てる(36条も含めて)ということができたのが、そうもいかなくなる、ということでもある。

長くなったので、訂正審判関係は次のエントリで。