さて、4弾目後半。
ご存じの通り、無効審判の特許庁係属中は訂正審判請求ができない(代わりに訂正請求)が、その無効審判の審決に対して取消訴訟が適された場合は、提起後90日以内に訂正審判請求をすることができる。一体全体なんでこんな訳の分からない取り扱いになっていたかと言えば、講師によれば、特許庁と裁判所の妥協の産物!?で、この期間だけ訂正審判ができるようにした代わりに、裁判所は『決定』により事件を特許庁に差し戻すことができるようになっているとのこと。
『決定』であるから、実体的な判断をしないで、理由を付さずに自動的に差し戻すことができるわけで、これは知財高裁の部によっても取り扱いがさまざまで、事案に全く左右されず自動的に戻すところもあれば、事案によるところもあり、それが何度もされる場合も自動的に戻る部もあればそうでない部もあり、となんだかさらに訳の分からない状態になっていた。
実際、そういう目に遭っていたときに、差し戻されるんでしょうかね?と代理人に聞いたところ、『何部に配転されるかによりますね。』と言われ、目が点になったことがある。
んで、今回の改正は、そういうヘンテコな状態をただすもので、特許無効審判が請求された後は、確定するまでの間ずっと訂正審判を請求することができなくなる。ちょっと見、とても正しいように見えるのだけれど、特許権者側にしてみると、訂正審判の機会が限定されるというのはかなり厳しい。というのも、広い権利はとりたいし、とはいえ、権利が生き残らなければ意味がない、という二律背反状態におかれている訳なので、できればちびちび限定して、限界すれすれのところで妥結したいと思うのが常。そのために、何度も訂正審判請求を繰り返し、ちょうど良さそうなところを探る、というのが実務的には常識になっているところ、
と言われているようなものなのだから。訂正請求1階じゃキツイだろうから、まあ無効審決が出そうなときは審決の予告をするんで、それを見てもう一回訂正請求してもいいよ、というセット改正になったわけだけれど、この1回程度でそうそう事態が改善するわけではない。厳しい状態はあまり変わらない。日本では、EPOと違って予備的補正(訂正)が認められていないので、回数制限するならそっちを認めてもいいんじゃないの?と思わないでもない。そんな非効率なことは止めて思い切って一度で済ませなさい!
となると、今回の改正に対して特許権者側の取りうる対応としては、訂正請求について請求項ごとに異なる内容の訂正請求をし、訂正の許否を請求項ごとに得て、審判合議体の判断内容を詳細に知るように努める、というところになるのか(とは講師の言)。訂正段階になってからそういう対応がただちに取れるわけではないので、出願段階から多段階・多面的なクレームドラフティングが必要になるんだろうな〜、と思ってちょっと暗澹となった。
ちなみに米国でも予備的補正は認められていない。そのせいかどうか知らないけど、特許侵害訴訟で権利行使されるような特許は、クレームの数が膨大で、いろいろな構成要件が抜き差しされたいくつもの独立クレームのバリエーションが存在することが多い。こっちのクレームではこの構成要件を充足してないから非侵害と思って安心していると、よくよくみたら同じ特許の中の別のクレームではちゃっかりその構成要件は入っていなかったりする。また、同じ特許の中にはそれほどバリエーションがなくても、継続出願のクレームを見ると、そのようなバリエーションになっていたりする。そしてもちろん、継続を引き延ばし、係争中に継続出願のクレームを変更して成立させるようなことは日常茶飯事である。今後は日本でもこの程度のことはやらないといけないのか??
流れとして、あとから色々その場で考えて補正訂正するよりも、出願時にちゃんと考えておきなさい、という方向であることは理解しているが、出願時には海とも山ともつかないので、全ての出願についてそんな大仰な対応を取ることはできないし、出願時には思っても見なかったようなものが大化けすることはこの世界ではよくあることなので、困るんだよねぇ。。。
と溜息が出てセミナーを終わったことだった。
とはいえ、色々理解は深まったし、考えるところも多く、大変ためになるセミナーでした。ありがとうございました。