知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

グループ法人課税がグループ知財管理に与える影響?

今年の10月1日から、グループ法人課税制度の適用が始まる。これを受けて、経理&経営管理担当役員からは、子会社である事業会社の特許権等を親会社(持ち株会社)に移転するに当たって、

税金については考慮しなくてよい。

と言われている。が、いったいどう考慮しなくてよいのだかさっぱりわからなかったので、あちこち解説を当たってみたり、調査助言をお願いしている弁護士さんに質問してみたり。

今回のスキームに関係しそうなグループ法人課税制度の要点は、

(1)一定資産の譲渡損益の繰延制度
(2)寄付金・受贈益の損金・益金不算入

のようである。

(1)一定資産の譲渡損益の繰延制度
法人間で資産(この場合特許権)が譲渡される場合、原則は時価での取引となる。知財権については、この「時価」評価が難しいこともあって、どのように評価したとしても、税務当局から

適正でない

とされ、取引時に認識していた「譲渡益」が増額され、それに対して追徴課税されてしまうリスクが払拭できない恨みがある。

今回のグループ法人課税制度においては、このような譲渡益について、完全親子関係(100%親子会社)間においては、譲渡時点では課税が発生されないとされ、その資産(=知財権)がグループから外にさらに譲渡されれる際にさかのぼって課税されるというもの。永遠にグループ法人内にその資産がとどまっていれば、課税が発生することはないわけだが、そもそも「時価」や「譲渡益」を設定しなくてよいわけではない。課税が発生しないだけで、帳簿上の取引が存在しないわけではないから。

となると、やはり残念ながらことはそれほど単純ではなくて、「時価」評価を一応しなくてはいけないというのは従来と変わりがない。まあこれを財産価値がないものだから時価「0円」などと強弁することができないわけではないが(どうせ課税はされないのだから文句を付けるヤツはいないからということで)、第三者にライセンスしている実績がないにしても自社実施をしているものは少なからずあるわけで、それが時価「0円」というのはどう考えてもおかしい。そもそも価値がないのだったら移転する必要もあやしいということになりかねないし。であれば、あり得るのは、移転した特許権等について子会社にライセンスを行い、そのロイヤルティ額と譲渡価格を相殺するスキームを作るくらいだろうか。いわゆる

『行ってこい』スキーム

である。しかし、これも、親会社子会社が2社だけであれば成立しなくもないが、子会社が複数になり、その複数会社から特許権が親会社に集められ、それらを相互に自由に使用できる形にしようと思えば(スキーム設定の目的の一つはここにあるわけで)、移転するものとライセンスを受ける者とのインバランスが問題になりそうである。

などと、昨日、弁護士事務所で税務の専門家の説明を聞きながら議論していたのだが、そのうちふと『譲渡益』は『帳簿価格』と『時価』との差額という話になり、

自己創設特許は資産に計上する義務がないので通常簿価がありません。資産に計上される場合も、その特許を発明する際にかかった研究開発費用は計上することが許されず、実際の特許の取得費用(弁理士費用、特許庁手数料)のみが計上され、その後減価償却されることとなります。

ということで、当社の場合(まあ念のため確認はしますが)、特許権は帳簿に載っていない。

あれ?

実は、この課税繰延制度は、実は帳簿価格が1000万円以上のものについて適用があるとのこと。それじゃあ、帳簿に載っていない知財権等についてはそもそも適用がないし、帳簿に載っていたとしても、特許の取得費用なんて1件せいぜい100万円、海外だってその倍程度なので、1000万円に届くわけがないわけ。あらららら。全然だめじゃん。