同じ会社で知財渉外業務を5年もやっていると、ケースのバリエーションにも限りがあって、だいたい想定の範囲に収まってくる。この『想定』がいつの時点で形成されるかと言えば、実は相当初期の段階で、しかもそれほど外れることがない。とはいえ、それをしているのはたかだか2人なので、何をやっているのかが外から見えるように可視化をして説得力が出るように説明資料を作ろうね、などという努力をしているわけだけれど。
その『想定』を形成する柱の一つに、対象特許の堅牢性?のあたりをつける、というのがある。特許は各国の特許庁で審査が行われた結果、新規性進歩性などの要件を満たしたものとして成立するわけだけれど、審査は審査官がサーチした範囲で検討した資料に基づいて行われているという限界がある。特許法上は、出願前に存在する全ての文献等に引き比べて新規であったり容易想到でなかったりしなければいけないわけだから、特許の成立を揺るがす資料が後から見つかることは当然ありうる。
権利としての特許の脆弱性と言われるゆえんだが、この『後から調査をかけて対象特許の有効性を否定できるようなネタが見つかりそうか』のあたりがつけば、その後のケースを進める上で自社のポジショニングの基点とすることが可能となるわけである。『そんなことできるわけ?』と思ったりもするが、今のところ割と高い精度でできているようだ。
このあたりの渉外の技術的側面は、一緒にやっているなんというか『調査解析マイスター』みたいな相棒に全面的にお任せしているのだけれど(もう10年若かったら弟子入りしてやるんだがこの歳でやるのは非効率も甚だしいので諦念)、かの匠の方によれば、
とのことである。ふうん。概ねこのフローのなかで技術的な歴史の中での当該発明の位置がわかる、だからそれをつぶせる資料が存在思想かどうかも分かる、ということなのだろう。1. まず対象特許の明細書を読み込んで、技術思想の中核の概念を抽出する
2. 抽出した概念を言語化する。明細書で使われている用語に囚われず、一般的な用語も含めて類義語を用意する。
3. 2の用語をキーワードに、WEBサーチをかけて、その技術が最初に出てきた時代を特定できるようなモノを探す。
4. 3で探し出したモノをアンカーにして前後5年ずつくらいを舐めて調査する。
5. 4の調査結果の中に対象特許を位置づけてみて、その技術思想の中で早いのか遅いのか基本的なコンセプトなのか改良なのか広い概念なのかピンポイントな話なのかといった性質?を把握する。
6. 5の結果から、対象特許を無効化する資料がありそうかどうかを推測する。※ありそうな場合、すでに4-5の段階で近いモノが見つかっていることが多い。
また、上のフローの中で肝になるのは3と4で、アンカーになるモノが特定できれば、たいていの場合その前後に発明が集中するので、効率よく調査ができるということらしい。