知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

弁理士という看板の代金(2)

前回の記事に書いたように、初職会社に弁理士登録周りの費用を全面的に出してもらい、のほほんと暮らしていた?のだが、登録からしばらくたって、会社を辞めることになった。夫の海外転勤に同行するためである(結構迷ったけどまあ結果的に中々得られない体験ができるだろうということでそういう選択になった)。

ここで、自動的に看板代のスポンサーを失った私には、3つの選択肢があった。

(1)自分で弁理士会費月額2万円を払う
(2)スポンサーをみつける
(3)看板を下ろす=弁理士登録を抹消する

行く先が海外では、日本の弁理士資格を使って代理業務を行うことはできない。その意味では、日本を離れている間に看板を上げているべき必然性はない。第一、ビザの関係で仕事はできないから、収入がゼロになるのに特に費用対効果のない看板代に月に2万円は痛い。

帰国後に就職する約束をしてどこかの特許事務所にスポンサーになってもらえないかと虫のいいことも考えたりしたが、夫の転勤期間が3年とも5年とも言われていて要するに未定だったため(そもそも行き先すら米国からカナダに変更になったし)、帰国の予定が見えなかったこと、事務所に売り込めるほどのキャリアがなかったこと、その時点で会費のために将来を決めるのもいかがなものかと思ったことで、スポンサー探しは諦めた。

ところで、この当時、弁理士の登録要件には、『国内在住であること』が含まれていた。現実に日本特許庁へ代理人として出願等を行おうとすれば、国内にいないと難しかった時代でもあり(今はインターネット出願になっているので海外からでもやろうと思えばできるだろうけど)、弁理士会としては郵送物の送付先が海外では費用もかかるし、という管理上の都合もあったのだろうと思う。

このため、海外に転居する場合には、転居先を弁理士会に届けようにも受け付けられないので、登録を抹消するのが素直な行動となる。とはいえ、特にそこを厳しく見ていたわけではないので、実家の住所などに個人事務所を開設する形にしてこの要件をバイパスしている方は少なくなかった。

という中で散々迷ったあげく、やっぱり年間24万円は痛いという懐事情を優先して、大義名分?としては国内に住所がなくなることを挙げて登録を抹消した。

在カナダ時代は6年弱に及んだが、その間まったく弁理士として行動する機会はなかったし、必要も欲求もなかった。

私がカナダに居る間に国内要件は撤廃されたので、帰国が決まってから実際に帰国するよりも半年ほど前に再登録した。再登録と言っても、やること・要求されることは初回の登録と全く同じ。以前に登録していたことがあるかどうかのチェックボックスはあったような気がするが、だからといって、登録番号が戻るわけではなく、そのときの新規登録者と同じ扱いで、順に登録番号が付く。

結果、私の弁理士登録番号は、1400番ほど繰り下がった。

弁理士は、弁護士さんのように修習期というものがあるわけではないので、弁理士業界に足を踏み入れた時期を特定する公的なものは登録番号のみである。合格年度も似たような効果があるが、これは常に表示されている類のものではないし。一方、登録番号は弁理士として行動する全てのことについて回る。研修を受講しても、各種委員会に出席しても、選挙の登録でも、諸々。

いや〜、帰国して弁理士会の委員会に出るようになって、自分の登録番号が『もの凄く若い』ものであり、同期の面々が既にそれなりのポジションにあることが明らかになったときのショックというかなんというか。まあ皆さんがみっちり実務経験を積んでいる中遊んでた訳なので仕方がないんだけど、やっぱり結構キましたね、これは。抹消するんじゃなかった〜、と思ったけど後の祭り。

とはいえ、冷静に考えれば、失ったものはそれだけで、休業期間中に看板を上げ続ける効果は特にないと思う。再登録からさらに10年以上経って、再登録番号でも既に若手でなくなった今になるとよりそう思うのだった。

なんだか寄り道エントリになってしまったが、では、現職で会社が負担している看板代をもう払わないと言われたらどうするのか。これが本題なのだけれど、また長くなってしまったので、続く。