最近あまり知財関係の記事がなくて淋しい気がするBLJなのだけれど、標題の記事はストライクゾーンで非常に良かった。ということで、感想というかコメントを書いてみる。ちなみにこのシリーズは本号で4回目で、第1回は「名誉毀損・誹謗中傷・不当表示等」、第2回は「環境規制違反等」、第3回は「個人情報漏洩」であり、どれも参考になると思う(私の守備範囲外の回については断言しかねるだけ)。
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 12月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2013/10/21
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似たような商品を販売する、というのは多かれ少なかれどの業界でも見られる類のことではないか。だから「トレンド」なんてものが存在するわけだし。要は、その「類似」の程度の問題、という話になってくる。
これって、微妙なんだけど、ファクターが3つあって、(1)類似商品が出される度合いが増している、(2)類似品に対しての寛容度が減っている=以前であれば見逃した程度のものに対してもクレームをつけることが増えている、(3)以前からクレームはつけていたけれども最近はそれだけでは済ませずに訴訟にしてしまうことが増えている。上記の引用部分の書きぶりだと、(3)だと言われているように読めるのだけれど、実際どうなんだろう??競争会社が自社商品と類似する商品を販売したり、逆に自社商品が競争会社の商品と類似しているとクレームを申立てられることは少なくない。そして、以前に比べ、そういった知財関連の紛争が訴訟に発展してしまうケースが増え、訴訟の規模も拡大している。
モノが溢れてなかなかヒット商品が出なくなっている昨今、あやかりたいという気持ちは意識的にも無意識下でも増えていて、(1)も強まるし、ヒット商品を出した方から言えば放置していてはせっかくの虎の子?が台無しになりかねないのできっちり言うことは言っておかなくちゃ(2)となるし、さらに双方必死なので折り合いがなかなかつかなくて(3)というところなのかもしれない。
で、記事に書かれているとおり、このような類似商品に対する請求の法的根拠として最も強力なのは意匠権である。記事ではさらっと
と流されているが、実際日本の意匠出願・登録件数はジリ貧で(年間3万件弱)、特許庁はキャンペーンをしてみたり、ようやく久しぶりの法改正を見込んでいたりしてはいるが、あまり増えそうにない。特許に比べれば費用も安いし登録までの期間も短い(現在約7ヶ月くらい。分野によるが)のでもう少し利用されていても良さそうな気もするが、あまり使い勝手が良くないというユーザー評価なのだろう。実務においては意匠登録を取得していないことが多い。
(a)類似商品が出されがちな商品分野において、(b)それほど商品のアイテム数が多くなく、(c)それなりの期間継続して販売されるのであれば、意匠権を取得しておくのは効果が高い。後述する不正競争防止法2条1項3号(形態模倣)よりも断然強力であり使い勝手が良いのはまちがいないのだから。
ということは、裏を返せば、実務上あまり意匠登録をしていないということは、上記の(a)〜(c)のどれかが欠けていて、全ての製品について意匠登録を受けておくというのが現実的でないため出願されるものが限定される結果、類似商品が出たときにはその商品をカバーする意匠権は手元になかった、というところではないか。どの商品がヒットして類似モノがでるか、というのは商品の発売時には予想がつかないので、全てを出しておくのでない限り当たり外れが出るのは仕方がないと言える。
で、残念ながら読みが外れて?意匠権がない場合で、商品発売から3年以内であれば、記事にあるとおり不正競争防止法2条1項3号(形態模倣)を使う。もともと本号は、意匠権がない場合にも、3年程度は先行者利益がデッドコピーから守られるべき、ということで、不競法の平成5年改正で新設されたもので、趣旨は以下のように言われている。
ということで、そもそも趣旨から「デッドコピー防止」であるから、当然ながら意匠権のように類似の幅を持っているわけではなく、その要件としては、記事にあるように、「依拠」と「実質的同一性」が要求される。先行者の商品形態が模倣されると、模倣者は商品化のためのコストやリスクを大幅に軽減できる一方、先行者の市場先行メリットは著しく減少し、模倣者と先行者との間には競業上著しい不公平が生じ、個別的な商品開発、市場開拓への意欲が阻害されることになる。このような状況を踏まえ、個別の知的財産権の有無にかかわらず、他人が商品化のために資金、労力を投下した成果を他に選択肢があるにもかかわらずことさら完全に模倣して、何らかの改変を加えることなく自らの商品として市場に提供し、その他人と競争する行為(デッドコピー)は、競争上、不正な行為として位置づける必要がある。(平成5年改正時の「産業構造審議会知的持参制作部会報告書」15頁)
「依拠」については、商品が世の中に出回っている以上、「依拠していない」ことを証明するというか「依拠しない」商品開発体制を作ること自体難しく、記事中にもあるように、これが否定されるのは、その他にも同種の類似の商品が数多あるために、特定の商品への依拠が否定されてしまうということによる。
そして、「実質的同一性」については、記事に言われるとおり、
わけだけれども、やはり「同一」と「類似」の間には相当深くて広い川が流れているわけで、ぱっと見「似てる!」とは思っても、違う点は各所にあって、「(実質的に)同一」かと言われると、疑問が出てくる場合の方が多い。日本の事業者は不正競争防止法の存在は重々承知していることが多いので、意匠権が存在すれば類似範囲に入って来るだろうけれども不競法上の「実質的同一」には当たらない、というぎりぎりの?線を狙っているだろうと推測されるようなケースが多いわけ。「類似性」の判断ほどに幅があるものではないにしても、まったく同一である必要はなく、創作性の程度や市場での同種デザインの流通状況等を考慮して柔軟に判断されている。
ということで、よほどのケースを除き、不競法2条1項3号で訴訟に行って勝つのは相当難しいと思った方がよいのだが、だからといってクレームの根拠として使えないというわけではない。裁判に行ってそれなりの主張をしなければ被告側も勝てるとは限らないので、訴訟になるのは避けたいという心理が働くから、クレームの段階でなんらかの妥協をしてくる可能性は高い。記事にもあるとおり、アクションを起こさないリスクもある(黙示の許諾まで行かなくても上記のように「依拠」性が否定されてしまう)ので、一定程度の主張が可能と思えばクレームをつける価値はある。但し、この程度が低いのにクレームばかりつけているのは逆効果で、タダのクレーマーと変わらないのでこれはこれで要注意ではある。
記事のその他の点については(IIの著作権関係の想定事例については守備範囲外なので置くとして)非常に丁寧に説明されていて頷けるところが多かった。
そして行き着くところは、社内研修だよな〜、というところも激しく同意。結局、どのようなモノがどういう風に判断されて(裁判所に・競合会社に)、リスクとして顕在化してくるのか、というラインを相場感として社内で共有するのがとても重要ということである。でないとモグラたたきのようなことをあちこちで繰り返すことになり、不毛この上ない。