弁理士会の標題の研修に行ってきた。講師は、レクシア特許法律事務所の弁理士 松井 宏記 氏。松井先生は、あちこちのセミナーで講師をされている意匠商標系(両者の業務割合は概ね半々だということ)の気鋭で、実例豊富で説明も分かりやすいので機会があるごとに担当に出席をさせたり自分でも出たりしている。
企業の知財で取り扱う意匠は当然ながら自社製品に限定されるので非常に分野としては狭くなってしまうし、日頃から色々目配りするほど意匠にかけられるリソースは多くないから、こうした研修で紹介される登録例はたいてい物珍しい(汗)というか「知らなかった!」となることが多い。やっぱり守備範囲に入っている以上、時々アップデートする機会をもたないとなぁ。
研修の中身は、標題の通り部分意匠と関連意匠の話だった。豊富な実例でへぇ〜を連発していたのだが、ポイントとして纏められていたところからいくつか!!と思ったところは以下の通り。なんにしても意匠の専門家ではないのでそんなの当たり前!という点が含まれているかもしれないがご容赦のほど。また、誤解している部分があればご指摘下さい。
1. 部分意匠
(1)特徴ある部分・模倣されやすい部分を実線(権利要求部分)にする。その際には特許的および商標的視点から部分を見る。
これは日本の特許庁が部分意匠の説明としてよくされることもあり、国内では主流のクレーム型で、創作者が主観的に「ここが特徴」というところを権利として欲しい部分として特定(実線に)するもの。
商標的観点、というのは、製品の一連のシリーズとして共通横断的に使うデザインは商標的な機能を果たすので、新規性があればぜひ意匠で保護したいもの、というのが一点。さらに、模様についても、図形商標で登録できなくはないが、権利行使の際に必ず商標的使用かどうか、文字商標との重畳使用になった場合など争点が多くなるので、こちらも新規性があるうちに意匠登録しておく方がよい、という話があった。
特許的、というのは、特徴記載においては従来との比較で技術的なアピールが可能、という点。意匠だからといって装飾的な表現のみしか主張できないわけではなく、デザインに技術的な意味がある場合はこれを使うことができる。
(2)ディスクレーム型
こちらは欧米で主流。いらないところだけ破線にするもの。代表的なのはAppleの初代iPhone(意匠登録1377246号)やiPod shuffle (意匠登録1331166号)のように、外形だけを実線にする、スピーカーボックスの意匠登録(1289832号)のように変わりうる端子の部分を破線にする、等。特徴ある製品デザインでは、設計思想がなにかを考えてそれを押さえたいところで、まず外形のみを実線でクレームし、その上に何が乗ってもOKと囲む。乗った物は形を問わない。破線を入れずに省略することもできるが、機能的に何かが配置されるのが通常であれば破線で入れて置いた方がベター。
(3)小さく切り取りすぎない
部分意匠をどの範囲で切り取るか、というのは結構悩ましい。一見ポイントになるところだけを小さく切りだした方が権利範囲が広く見えるのだが、実は逆。被疑侵害品が出てきたときに、小さいと相違点が大きく評価されてしまう。一見似ているように見えるものが細かい相違点の勝負になってしまって全体印象で争えないという恨みがあるとのことだった。この視点は持っていなかったので勉強になった。
類似の観点で、特徴部分の部分意匠だけがあればよいというものでもなく、権利行使の際は全体意匠と部分意匠の両方があった方が全体の印象を持って相違点を小さく見せることが可能になるのでより強い。
(4)分離している部分の意匠は一点鎖線で囲む
多意匠一出願にならないように、ということ。
(5)ディスクレーム部(破線)の権利解釈時の捉え方
破線部は無関係というわけではなく、どういう環境(構造)の中に置いた場合の実線部なのか、という認定がされるため、基本的構成の一部であると言える。
2. 関連意匠
(1)意匠の類似範囲
単独の意匠登録は、類似の範囲が不明で、他社にとっても審査官にとってもぼんやりした状態。そのため、後願によって類似範囲が浸食される=どんどん狭くされて類似の解釈が変わって来る。権利行使しても、非類似主張が可能なためなかなか止めてもらえない。権利者にとって最も怖いのは、後願の引用意匠になった場合に、後願の不服審判において後願の出願人に争点を設定されて非類似主張を一方的に行われて反論の機会がないまま審決で認められることで類似範囲が明確に狭くなってしまうこと。これを避けるためには、あらかじめ関連意匠を登録して類似範囲を明確にしておくことが重要。関連意匠があれば、他社も非類似を主張しにくいし、審査官も後願をはじいてくれる。
(2)共通概念化
関連意匠を考えるときには、具体的表現でなく、概念で考えるのがポイント。一見して印象が似ていると思っても、権利の解釈は文言で行うため、その文言上の表現で相違していると言えれば非類似に見えてしまう。これを避けるためには、具体的な相違を含まない上位概念を設定し、それをサポートする具体的な表現として関連意匠を用意するのがよい。
→特許の上位概念と実施例サポートに少し似ていると思った。
どこまでの共通概念が認められるのかについては、バリエーションをいくつも用意して関連で出願してみて認められるかどうかで判断していく。意匠は登録されなければ公開されないので、非類似=関連でないとされたものはあえて出願放棄するという手も(他者に対しては類似範囲を不明なままにしておく)。