知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

IEEEが12月20にCAFCに提出したamicus brief (Ericcson v. D-Link et al.)

1月22日に知財高裁の大合議に付されることになったアップル対サムスンの控訴審で一般から意見募集することを裁判所から双方代理人(モリソン・フォースター/伊藤 見富法律事務所大野総合法律事務所)が促されたということで、当日は知財界隈では話題沸騰というか騒然としていた。今日は弁理士会から会員向けに、上記の意見募集がについての案内があったし。ちなみに意見募集の内容は、

標準化機関において定められた標準規格に必須となる特許について、いわゆる(F)RAND宣言((Fair,) Reasonable and Non-Discriminatoryな条件で実施許諾を行うとの宣言)がされた場合の当該特許による差止請求権及び損害賠償請求権の行使に何らかの制限があるか。

となっている。(記リンク先の代理人事務所内の該当記事を参照。)

ということで、2014年は2013年から引き続き(ジュリスト9月号に特集もされていた必須特許・RAND祭りになりそうな気配だけれども、これは何も日本だけの話じゃなくて、本家?アメリカでもいくつもの事件が地裁に係属していたり控訴されたりしている。

その中の一つ、エリクソンが無線LAN関係(802.11規格)の必須特許でD-Link他をテキサス東部地裁に訴えていたケースがCAFCに控訴され、これに対して規格団体であるIEEEがamicus briefを出したという記事The Essential Patent Blogに載っていて、年末年始に読もう読もうと思いつつ着手できずにようやく今日読んだ。

(参考:IEEEの規格策定プロセス)
f:id:senri4000:20141108134119j:plain

それほど長いものでもないので、詳細はお読み頂くとして(といままで放置しておいて言うのもなんだけど)、IEEEによれば、必須特許(Essential Patent Claim)は、以下のように定義される。

any Patent Claim the use of which was necessary to create a compliant implementation of either mandatory or optional portions of the normative clauses of the [Proposed] IEEE Standard when, at the time of the [Proposed] IEEE Standard's approval, there was no commercially and technically feasible non-infringing alternative.

この直後に、以下のように簡潔に言い換えられてもいる。

if it is not possible to implement the standard without infringing a patent, then the patent is essential.

一つ注意すべきなのは、ここでの「準拠する規格(標準)」には、mandatory(必須)のものとoptionalなものの両方が含まれているというところ。802.11規格には、optionalな部分が山ほど含まれていて、それを採用するかどうかは作る側に任されているのだが。

で、このような必須特許は、規格策定プロセスにおけるミーティングで、ミーティングの参加者に対して、必須特許になりうる特許の保有者を知っていれば明らかにするように求められる。詳細は、IEEEのPatComのサイトに資料が置かれている。

保有者が特定されたら、その保有者に対して、LOA(Letter of Assurance)を提出するように求める。LOAには、ライセンスの意思の有無や条件が書かれることになる。そして、LOAの提出状況によって、策定中の規格案の方向が決められる(ライセンスする意思が示されていない特許を含むような規格が成立してしまったら困ったことになるので)。

規格が成立してから、必須特許を持っていると言って権利行使をされてしまうと、規格準拠品を作っている者としては(高額の支払を伴うとしても)ライセンスを受けないという選択肢がなくなるため、いわゆる「ホールドアップ」となる。標準団体としては、このような事態を回避させたいわけで、このために上記のような仕組みを採用している。ちなみに、ブリーフ内に引用されているAntitrust Enforcement and Intellectual Property Rights 35 (2007)によれば、ホールドアップは、以下のような場合と定義される。

[1] after the standard is set, the holder of a patent essential to that standard identifies a patent, or attempts to impose licensing terms, that SDO members could not reasonably have anticipated;
[2] it is not a commercially reasonable option to abandon the standard and attempt to create an alternative, due to the cost of the standard setting process itself or the cost of developing products incorporating the alternative standard;
[3] and —most importantly — if the other SDO members had anticipated the patent holder's demands, those SDO members could have chosen a different technology that avoided this patent.”)

ただ、上記のように必須特許を持っている特許権者にあらかじめ手を上げさせてRAND条件でのライセンスを約束させたとしても、そもそも「reasonable」じたいが不明確な言葉なので、完全にはホールドアップを防ぐことができない、とされている。これが故に訴訟に発展することにもなり(その結果のこのブリーフになるわけで)。

このamicus briefの結論としては、裁判所が当事者双方の利益だけでなく、規格の策定プロセスにおける特許の取り扱いについてもちゃんと考えた上で判断して欲しい、ということが書かれていた。ご紹介としてはここまでに。

ちなみに、アメリカで行われているこの手の訴訟はやはり無線関係が多いが、ブルーレイ関係のパテント・プールであるOne BlueがImatioを相手に起こしている訴訟がある(差止は請求されていない)。ここでは、侵害論をやる前に、FRANDについて審理することになったようである。そして、特に報道されていないようだが、日本ではこれと並行してイメ−ション株式会社がOne Blueを不正競争防止法2条1項14号で訴えているようである(平成25年(ワ)第21383号)。