知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

2009年1月 判例勉強会

弁理士の会派である「弁理士クラブ」内の知的財産実務研究所から、毎年「実務家のための知的財産権判例70選」という本が出ている。

実務家のための知的財産権判例70選 2008年度版

実務家のための知的財産権判例70選 2008年度版

私は一応弁理士クラブ(弁ク)に所属しているのだが、地元の所属弁理士有志でこの判例70選をネタに判例の勉強会をすることになった。月1回、毎月2件を選択して持ち回りで発表、その後議論という形である。今日、その初回があった。参加人数は発表者を含めて7名。後3名が参加予定だが、本日は都合がつかなかったとのこと。

取り上げた判例は、特許の審決取消訴訟から1件、侵害訴訟から1件。クレームの書き方とか、意見書のストーリー立てとか、実務話が白熱して、今後の運営について話をするはずが時間切れになってしまった。取り上げた2件の概要は以下の通り。

1.審決取消訴訟(実装用基板事件、平成18年(行ケ)10251)
  特願2004-237764 特許法29条2項違反(進歩性なし)
 引用例1と引用例2との組み合わせについて、
  原告と被告は、
   引用例2の接着剤と本願の充填剤とが
   作用・機能について等しいかどうかを争っていた。
  裁判所は、
   引用例2より解決される課題が引用例1では既に解決されており、
   引用例2を適用することに阻害要因があるとした。

 引用例の適用が阻害要因となるという裁判所の論理構成は新しいものであり、
今後使える局面があるかもしれない。

2.特許侵害訴訟(眼鏡レンズ供給システム事件、平成16年(ワ)25576)
  HOYA(原告)・東海工学(被告)
  眼鏡店コンピュータ⇒メガネット協会⇒被告(眼鏡メーカー)
   レンズ情報・フレーム情報等入力(眼鏡店コンピュータ)
       ↓
   入力情報チェック・蓄積(メガネット協会コンピュータ)
       ↓
   蓄積された受注情報取り出し、加工(眼鏡メーカーコンピュータ)

  特許第35848569号:請求項1個のみ、
   システムクレーム(発注側コンピュータ及び製造側コンピュータ)
  眼鏡メーカーコンピュータは製造側コンピュータの構成要件を充足
  眼鏡店コンピュータ・フレーム測定器は発注側コンピュータの構成要件充足
   ⇒システム全体としては構成要件を充足=技術範囲に含まれる

  被告は、
   被告のコンピュータは特許請求の範囲の構成要件のすべてを充足しては
   いないため、直接侵害は成立しないと主張(従来の実務、判例通説)

  裁判所は、
   発明の実施行為者が誰か(=誰に差止・損害賠償を求めるか)と、
   構成要件の充足の問題は違うとし、
   当該システムを支配管理しているものが誰かによる、とした。

  複数主体の中で一部の構成要件のみを充足する主体に対して権利行使可能
   ・「支配管理」とは何か?
   著作権の「カラオケ法理」(※)の類推か?
    ※物理的な利用行為の主体とは言い難い者を、
     ?管理(支配)性および
     ?営業上の利益という二つの要素に着目して
     規範的に利用行為の主体と評価する

  この裁判例の論理付けが今後も踏襲されるかどうかは不明。本件が控訴され
ているかどうかも不明。
  今後も、システムクレームのみではなく、各主体にあわせたクレームドラフ
ティングは必要と思われる。

終了後、発表者の二人と会場近くの居酒屋に行ってたらふく飲み食い。今の仕事の話やら弁理士業界の話やらで盛り上がり、11時過ぎ。楽しかった。ごちそうさまでした。