知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

秘匿特権判例:Stryker Corp. v. Intermedics Orthopedics Inc. 145 FRD 298, 24 USPQ2d 1676 (E.D.N.Y. 1992)

秘匿特権研修で取り上げられた2つめの裁判例。

この判決であげられた秘匿特権の要件は以下の通り。

(1) where legal advice of any kind is sought
(2) from a professional legal advisor in his capacity as such
(3) the communications relating to that purpose
(4) made in confidence
(5) by the client
(6) are at his instance permanently protected
(7) from disclosure by himself or by the legal advisor
(8) except the protection be waived.

ここで、(1)の要件に関して、法的助言が主目的であること、すなわち単なる事実の伝達では足らないとされている。言うまでもなく特許は技術的な事項を多く含むので、コミュニケーションにおいて技術事項=事実の占める割合が高くなるのは当然であるけれども、その「事実の伝達」が法的助言を目的として行われている必要があるということらしい。右から左への事実の伝達がattorneyを介して行われただけでは、そのattorneyは単なる"conduit"だとされて、秘匿特権ではカバーされない。

特に、特許出願に関連した書類に関しては、
・出願書類は秘匿特権の対象にならない。
  最終的に特許庁に提出されるものであり、attorneyはclientの情報を特許庁へ"pass"しただけ。
  出願されれば公開される((4)の要件に該当しない)
・出願準備の段階で、最終的に出願書類に含めなかったものは対象になる
  含める/含めないについて法的判断がなされている

外国のpatent agentと米国のattorney間のコミュニケーションについては、個々のコミュニケーションにおいてそれぞれがどのような役割を果たしているか、そのコミュニケーションの"touch base"がどの国にあるか、さらに、当該外国においてclientとpatent agent間に秘匿特権が認められているかによって、秘匿特権が享受できるかどうかが変わってくる。

(1)まず、"touch base"がどの国にあるか
 (a)例えば、日本のclientと日本の弁理士の間で、米国の特許についての有効性(新規性・進歩性等)に関する相談をする場合、このコミュニケーションの"touch base"は米国である。
 (b)米国特許の対応日本特許について有効性を判断するのであれば、その"touch base"は日本である。

(2)米国のattorneyはどのような役割か
 (a)上記(1)(a)のケースで、米国弁護士がこのコミュニケーションに全く関与していない場合には、秘匿特権は認められない。
 (b)米国弁護士がその情報をそのまま特許庁等へ渡す等、単なる"conduit"であると考えられる場合であっても、
  日本の弁理士に日本において秘匿特権が認められていると判断されれば(これについては認められるという判決と認められないという判決が混在するが、文書提出命令についての民訴法改正後は認められるという見解が多いようである)、日本の弁理士がその米国弁護士の"co-counsel"と考えられ、秘匿特権が認められる。
 (c)米国弁護士がそのコミュニケーションにおいて法的助言を行っていれば、それがclientとの直接交信でなく日本の弁理士を介しており、その日本の弁理士が単に(自身の法的判断を挟むことなく)情報の伝達のみを行っているとしても、それは米国弁護士の監督の下に行っていると考えられ、秘匿特権が認められる。


ということは、結局、米国で訴訟が始まる前に、自発的にとある米国特許について日本で有効性の判断を日本の弁理士とした場合には、"touch base"がどうやっても米国になってしまうので、米国弁護士の介在がなければ秘匿特権は認められないということになってしまうわけね。まあ日本の弁理士が米国の特許について"a professional legal advisor in his capacity"(要件(2))とは言えないだろうから、それは当然といえば当然なんでしょうが。

それでも、米国弁護士が大したことをしてなくても、噛んでいるだけで"co-counsel"扱いで秘匿特権が認められるのであればずいぶんマシと考えるのか。使い方によるかなぁ。