知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

若手のギモン(11):発明のカテゴリ

先日特許事務所面談を行った案件のクレーム案をチェックしていた2号君がおもむろに言うことには、

クレームの立て方についてお聞きしたいんですが。

(コイツの質問の仕方って、いつもえらい大上段なんだよなぁ・・・。)

よく、1つの出願の中で、メインの独立クレームを、装置と、方法と、プログラムとで立てていると思うんですが、これはどうして3つ立てるんでしょうか。どれも構成要件としては同じように立てているようなので、1つで十分ではないかと思うんですが。

確かに、発明の特徴が制御にある場合、請求項1は装置で作成(構成要件は、機能実現手段が羅列される)、それに対応する方法クレームを独立で1つ、さらにプログラムクレームの独立を1つ、ということをよくやる。下位請求項は装置クレームにだけぶら下げておくことが多い。

これがよく特許侵害で訴えられる(!)米国特許になると、装置クレームよりは方法クレームがメインに据えられているパターンが多く、また、方法クレームの方がこちらとしては嫌な感じである。方法クレームには物理的な構成が存在せず、装置クレームなら構成要件の1つ・2つを充足しないとして逃げられるモノが、方法クレームだと入ってしまう、というケースがけっこうあるためだ。

制御系の発明の場合、結局のところその機能を発揮させている発明の本質はCPUが実行するプログラムであることが多いので、プログラムクレームをメインに据えてもいいのだが、いかんせんプログラムを物の発明として正面から認めているのは日本くらいだし、欧州じゃさっぱり無理で、米国では記録媒体クレームにしなければならず、けっこう制約が厳しい。中国は記録媒体クレームも認められない。となると、海外対応には方法クレームでいくのが王道かな、という気がする。

一方、日本の実務を考えた場合、装置クレームでも、機能実現手段が歴史的に広く認められてきていて、物理的な構成にはあまりこだわらずにクレームを作成することができるし、米国のようにmeans plus functionが故の権利範囲上の制約もない。汎用コンピュータ上でCPUがプログラムを実行することによって発揮される機能についての発明も、「その機能名称+装置」という仮想装置でクレームするということが広く行われていると思う。さらに言えば、どうせ仮想装置なので、CPUがどこにあるとか、記憶部がどこにあるとか、要は物理的に同じ筐体内に入っていなければならないとする意味もなく、分散型でも可であるという了解があったと思う。ハードウェアのあり方は、時代によってどんどん変わってくるもので、発明の本質が機能にあるのだから、ハードウェアのありように縛られる必要は特にない、との認識である。

他方、日本で方法クレームを立てる場合、コンピュータソフトウェア関連の場合は特に、ハードウェアとの協働を煩く求められるので、方法クレームを立てたところで装置クレームと大差ない形になってしまったりして、今ひとつ方法というカテゴリにしておく意味が薄いというか、装置とは別に方法で特許化したからといって、権利行使の時にうまく使えた、とかいう気がしない。装置でちゃんと取っておけばいいんじゃないの?というのが正直なところだった。手慣れた機能実現手段の形で立てる装置クレームの方が立てやすい、という実際上の都合もある。

てな話を先日とある研究会の席上で(余談で)していて、海外を考えず、純粋に日本の特許だけを考えた場合に、方法クレームを立てる意味はあるのか、という問題提起をしたところ、物理的な構成に縛られないように、方法クレームを立案する意味が今後は出てくるのでは、と、パイオニア対ナビタイム判決(東京地裁平成22年12月6日判決 平成21年(ワ)第35184号)を紹介された。

本件の対象特許は2件あるが、発明の名称が『車載ナビゲーション装置』で、いわゆる車に搭載するタイプのカーナビの特許。被疑製品は、サーバと携帯端末とで構成されるナビゲーションサービス。その他の構成要件に該当するかどうかはさておき(判決ではそれについても判断はされているが)、『車載』で『装置』の特許が『サーバ+携帯端末』にも適用されるのか、というそもそものところが判断されている。

原告側は、もちろん、

『車載ナビゲーション装置』は、本件特許発明の特徴及び作用効果に照らせば、『車両に対する経路案内を実現する機能を備えた車両用のナビゲーション装置であって、このような機能を実現するために少なくともディスプレイ、現在地を認識するためのセンサ(装置)、操作のためのキー等を車両に載せて使用するナビゲーション装置」を意味し、その構成の一部を車両に乗せた状態にする必要はあるが、その構成の全てを車両に載せることまでは要求していないと解すべき

と主張している。上記実務に照らせば、まあそうだよね?と言いたいところなのだが、裁判所は、

・明細書には、一体の機器としての『車載ナビゲーション装置』の開示はされているが、構成要素の一部を車両外に設置し、車両内に搭載された機器との間で情報を交信その他の手段によって交換することによって1つの『車載ナビゲーション装置』を構成することは開示されていない。
・『車載』という語の一般的な意義は、『車に積み載せること』をいうと認められる。
・『装置』という語の一般的な意義は、『ある目的のために機械・道具等を取り付けること。そのしかけ』をいい、一定の機能を持ったひとまとまりの機器をいうと認められる。
・従って、『車載ナビゲーション装置』とは、車両に載せられたナビゲーションのためのひとまとまりの機器であり、ひとまとまりの機器として車両に載せられていることを意味すると解するのが自然である。
・本件特許発明は、『装置』に関する特許発明であるから、『装置』の構成が特許請求の範囲に記載された構成と同一であるか否かが問題となるのであって、同一の機能、作用効果を有するからといって、構成が異なるものを持って、本件各特許発明の技術的範囲に属するということはできない

とした。『装置』かどうかに加えて、『車載』かどうかが問題となっていて、ダブルパンチの感はあるけれども、『ひとまとまりの機器』とされてしまうと、分散型になりつつあるコンピュータの世界ではけっこう辛い。明細書内に開示がないのはそりゃそうだと思いますが、平成3年の出願時点でこんな分散型システムが実現すると予想して開示しておくのはちょっとね、という感じだし、同等機能だとすると、明示の開示がないからといって、分散型システムは権利範囲に入らないというのも酷な気がする。特許権は出願から20年なのだから、その間にハードウェアの進歩はどんどん先に行くわけで、それを単に利用しただけで、発明の本質には影響がないようなものも埒外とするのは???

このような判断が主流になっていくのなら、コンピュータソフトウェア分野の装置クレーム・方法クレームのあり方を根本から見直さないといけないんじゃないの?と思ってしまった。少なくとも、方法クレームが要らない、とは言えないようですが、では効果的なクレーム立案はどうなるのだ、という確信は持てないのは変わらず。この分野にそれほど精通しているというわけでもないので(実務復帰して間もない浦島状態でもあることだし)、誤解しているところもあるのかも知れませんが。ご意見いただけると幸いです>実務家の皆様