知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

セミナー『米国特許法改正・判例の最新動向』

日本知的財産協会の標題セミナーに行ってきた。講師はワシントン大学ロースクールの竹中俊子氏。毎年この時期に前年の米国判例を振り返るセミナーを開催されているらしい(多分始めて聴いた、と思う)。今年は、America Invents Act (AIA)が2011年9月の成立後、徐々に施行になってきており、かなり規則も出揃ってきているので、その解説も前半3分の1ほど行われた。

1. AIA関係

印象に残ったのは、新設されたPost-grant reviewについて。これまでの再審査やInter partes reviewと異なり、無効理由が限定されていないので無効主張としてはもっとも強力に行うことができる。ただし、タイムラインがかなり厳しくて、reviewが行われると決定されてから最終決定書の発行までを12ヶ月以内で行わなくてはならず、かなりストレスフルであろうとのこと。

法律が通ってまだ規則が出ない頃に米国弁護士からもITCのような手続きになるのではないかといわれていたが、イメージとしてはそんな感じらしい。まあ争点が無効のみで侵害判断はしなくてよいので多少マシということか。

ということで、これを使うなら、請求を起こす前に周到に準備する必要があり、公開段階からウォッチングして、審査経過も注視して資料を集めておき、登録になったら9ヶ月以内に請求、というようにやらないと難しいだろう、とのこと。その昔日本で異議申立制度があった頃は、確かにウォッチしていて公告になったものにはガンガン異議をかけていたけれど、米国にはこれまで類似の制度がなかったので、最初は戸惑うかもしれない、と言われていた。

トロール対策で積極的に使われるかもしれない、との発言もあり、確かに、出願人がその手の会社であれば、ウォッチしていて早めにつぶすという手はあるかもしれない。RPXあたりがシステマティックに取り組んでくれないかしら(他力本願。だって高いんだよ、この手続き。大変だし)。

あとは、IDS関係で、Theresanse判決(判決文:pdf)に言及があり、あまりよく知らなかった(あちこちぐぐって読み直したら読んだことのある記事が出てきてがっくりしたが)のでチェックすべし、と思った。このCAFC判決により、IDS違反(不作為)によってInequitable conductとされるハードルはとっても上がったということで、相当悪質じゃないとね、ということらしい。

2. 最新判例

もうほんとに、最近まともに裁判例とかチェックしていなかったのが痛い。名前はもちろん聞いたことがあるんだけど、内容はさっぱり印象に残っていない。斜め読みじゃ無理ですってそりゃ。猛省(最近こればっかり)して、これからはちゃんと読みますです。

取り上げられた裁判例は、

(1)最高裁

 a) Mayo v. Prometheus
 b) Myriad Ass'n for Molecular Pathology v. USPTO (上告申立受理)
 c) Kappos v. Hyatt
 d) Caraco v. Novo Nordisk
 e) Monsanto v. Bowman (上告申立受理)
 f) FTC v. Watson Pharmaceuticals Inc. (上告申立受理)

(2) CAFC大法廷

 g) Akamai Techs., Inc. Limelight
 h) CLS Bank v. Alice
 i) Marine Palymer v. HemCon
 j) Apple. v. Samsung
 k) Microsoft v. Motorola

印象に残った事項だけメモしておく。

Prometheus最高裁判決にはかなり批判的(Bilski判決の基準が台無し・・・)で、飯村判事がこの判決についてどこかでコメントされていた(自然法則について、日本の特許法では発明の定義にそもそも入っているのに、という趣旨で)のが印象的だったとのこと。また、最高裁は、特許事件と著作権事件を似たような感じで考えているのではないか。表現を抽象化していくとアイデアになるように、クレームを抽象化していくと自然法則になる、みたいな?どんなクレームでもどんどん抽象化して解釈すれば自然法則になるし、『特許すべきでない』と一言で言われても、それが発明適格性の問題なのか、それともその後の新規性非自明性の問題なのかは切り分けて考えなくてはならないわけだけれど、これが特許の専門家以外の人に話しても全然分かってもらえない、と嘆かれていた。

また、これは医薬系の特許の話なのだけれど、この判決のタイミングがオバマ大統領のヘルスケアプログラム?の合憲性が争われていた時期と重なっており、医療費がなぜこんなに高い!という問題視も大きく影響しているのでは、それもあって最近の傾向として医療メーカーに対する風当たりがとても強く感じられ、新薬の研究開発には膨大な投資とリスクがあるのにもかかわらず権利行使をすることに否定的な傾向にあったり、ジェネリックメーカー有利に判断されたりすることが多いように思われるとのことだった。

さらに一般的に言うと、医薬メーカーに限らず、企業が例えば模倣品被害で商標権の権利行使をする、といった場合であっても、かなり慎重に言葉を選んで行わないとソーシャルメディアで批判的に取り上げられてバッシングされてしまう例があったりするそうで、こんなところにもレピュテーションリスクがあるのか!とびっくりした。

ともあれ、保護適格性の絡みで、この判決の影響でCAFCの判断は混乱しており、Softwareの基準がまたよくわからなくなっている状況らしい。それがb)Myriadの最高裁判決待ちにつながるとのこと。

ここで、発明適格性が問題になるのは典型的にはソフトウェアで、今回取り上げられているのはバイオの話だけれども、ソフトウェアとDNAはよく似ていて、DNAというのは最も重要なのはそこに格納されている情報で、DNAは媒体に過ぎない。それがmachine readable mediaとソフトウェアの関係に共通する、と言われていた。

e)は消尽の問題ということで、Quanta事件で判断されなかった、販売時の制限により消尽が回避できるのかどうかという点の判断が期待されているとのこと。日本や欧州では消尽は政策的なものでありこれで回避はできないという結論になっているけれども、米国ではFirst sale doctrineなので、制限をつけることによりfirst saleにならなくなるという構成になるらしく、これが最高裁で踏襲されるのか、変更されるのか注目ということのようである。

Akamai判決もちゃんと読まなくちゃ、なのだが、改めて、日本では間接侵害は直接侵害を必要としない独立説が通説判例だけれども、米国では従属説であることを確認。方法発明の間接侵害の場合、直接侵害の主体が複数でも良くなった、とはいえ、やっぱり直接侵害は必要なので要件がきついことには変わりない、という話。

i)Marineは、reissue patentの中用権の話。日本の特許訂正と違って、reissueは、特許の再発行なので、いったん前の特許は消滅してしまう。だから、新たなクレームで特許が再発行された場合、そこに中用権が発生する余地があるということで、不勉強で知りませんでした。とほほ。

今話題のApple v. SamsungやMicrosoft v. Motorolaは、技術標準系の特許で、かつ、この分野の特徴であまたの機能のうち1つの特許がカバーするのはごく一部、という中、差止めが認められるハードルは非常に上がっている。欧州では、独禁法の関係で、標準の必須特許でRAND条件を出していた特許の差し止め請求をした場合に、市場の支配的地位の濫用とか言われているケースも出てきている、という、特許権者にとっては、いったいなんのために特許を取るのだろう、と思うような環境になってきている、とのことだった。

なるほど。FOSS Patent やっぱりちゃんと読まなくちゃ。竹中先生も、

この辺を書いているブログがあるんですよ〜

と言われていたことだし。

うーん、特許権者側に立つとそうかもしれない。しかしやっぱりそもそも特許の藪では、一つ一つの特許で権利行使をしていたら産業の発展はないよ、と正直なところ思うのであります。