知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

弁理士会中央知財研 研究発表会

標題の、弁理士会の会員向け研究発表会に行ってきた。

今回の研究発表会は、中央知財研究所が複数走らせている研究部会のうち、関西で行っている『知的財産権侵害に基づく差止め請求権を巡る諸問題』を研究課題とする部会の発表で、京都大学の愛知(えち)先生と、弁護士弁理士の三山先生のお二人が講師だった。研究部会の構成員の先生方の報告は、別冊パテントの形で本年度中には出版されるらしい。

米国のeBay判決がパテントトロールに差し止めを認めない趣旨の判断を出したことを契機としてか、産業構造審議会特許制度小委員会が『差し止め請求のあり方』について報告書を出したり(2010年5月)していて、日本でも差し止め請求を制限することを考えるべきではないか、という文脈があるなかでの研究部会ということだろう。

11人の研究員の報告のタイトルが紹介されたが、eBay後の米国裁判例やドイツでの状況等も含まれていて、興味深く拝読できそうな気がする。楽しみだ。

本日の発表では、愛知先生から、主に理論的な側面、民法における差止請求権の理論、すなわち、その根拠をどこにもとめるのか(排他権だから当然に差止め?それはトートロジーじゃないの?とか、利益衡量は不要なのか、とか、不法行為の効果?でも明文ないよね、とか色々)の紹介、それを受けて知的財産権ははたして『排他権』なのか、という考察、利益衡量しなくても今まで通り権利濫用を使えばすむのでは?という意見などの説明があった。

こうした理論的なところは、実務におぼれたり埋もれたりしているとなかなか目が行き届かないところではあるし、反面、理論的な裏付けがないと行動が薄っぺらくなってしまうので一貫した仕事をするには不可欠でもあるので、このような機会にまとめて説明を聞けたのはありがたかった。正直、これを書物で読むと寝てしまうだろうし・・・。う、別冊パテントは頑張って読みます。はい。

三山弁護士のお話は、民事執行法の改正で間接強制が使いやすくなったことを視野に入れて差止請求の問題を考えるべき、という視点で、なかなか通常は執行のところまで考えないだけに、興味深く拝聴した。

差止請求=不作為請求を強制執行する場合、間接強制ということになり、それは、それを行う方向へ心理的圧迫を生み出すだけの強制金の支払(さらにはその強制執行=差し押さえ)という形になり、究極的には金銭解決の問題に帰着してしまうということ、そして、この強制金の決定は、民事執行法改正時に、それまでの損害賠償額相当から、債務の履行を確保するに足りる額を裁判所の裁量で定められるようになっており、債務者が侵害を継続することによって得る利益を上回る額に設定することが可能、場合によっては懲罰的賠償額相当の強制金も可能、ということだった。

正直なところ、実務的に考えるとそうなんだろうな、と思ったのだが、なんだか結果オーライになるための議論のようにも感じてどうもすっきりしない感じが残った。細かいところに納得できないわけではないので、大義名分が立たないように感じているだけなのかもしれない。あとは、ちゃんと別冊パテントが出てから報告を読んでこのもやもやを解消したいと思う。