知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

知財人材なるもの

従前から見聞きは当然していながら深く定義を考えてこなかった『知財人材』という用語に正面から取り組まざるを得ない羽目になり、どこかに定義が転がっていないものかと探してみた。

企業知財の立場からすれば、すぐ思い浮かぶのは、経済産業省の『知財人材スキル標準』。pdfやらエクセルやら用意されていてDL可能なのだけれど、余りに膨大で訳が分からないので、分厚い冊子の方を有料で購入して書庫においてあるのだが、矯めつ眇めつ?してみたが、最初から『知財人材』で話が始まっていて、定義が書かれた箇所は見当たらなかった。ううむ。

どうやら、このスキル標準が策定された出所は、「知的財産推進計画2006」らしい。そして、知財人材については、知的財産戦略本部の知的創造サイクル専門調査会が2006年1月に『知的財産人材育成総合戦略』をとりまとめたということのようである(この第5回会合の資料1)。

で、この『知的財産人材育成総合戦略』において、知的財産人材は、(1)知的財産専門人材、(2)知的財産創出・マネジメント人材、(3)裾野人材の3種に分類され、3重の円として描かれている。

(1)知的財産専門人材

知的財産の保護・活用に直接的に関わる人材であり、狭義の知的財産人材とされている。まあ、「業として」知財を取り扱う人々、知財を飯の種にしている人々とでもいいましょうか。普通に「知財人材」って言われて思い浮かべる人々であろうと思われる。具体例としては、企業の知財担当、知財専門の弁護士、弁理士、特許技術者、特許サーチャーや特許翻訳者などの関連事業者、TLO等の産学連携関係者、特許庁の審査官、行政の知財政策担当者、知財関係の裁判官、知財関係の専門教育者などが挙げられている。

(2)知的財産創出・マネジメント人材

広義の知的財産人材とされており、知的財産を専門的に扱う職業ではないものの、知的創造サイクルを回す上で不可欠な役割を果たす人材とされている。主に創出系の人材と知的財産を生かした経営を行う人材を年頭においているようで、研究者や技術者、コンテンツのクリエーター、経営幹部、コンテンツビジネスのプロデュサー、標準化人材などが例として挙げられている。

(3)裾野人材

(1)や(2)以外の全ての人々とされ、一般の人々が知的財産に関する最低限の常識と規律を持つことが求められる、としている。

この『知的財産人材育成総合戦略』においては、これらの人材を育成していくことによって、いかにうまく知的創造サイクル(創造・保護・活用)を回していくかに主眼が置かれていた。

これが、5年経って、2011年になると、グローバル化・オープンイノベーションの急激な進行により、このような「技術起点型サイクルモデル」だけでは立ちゆかない、という問題意識が出てきたらしく、知的財産戦略本部の「知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会」によって、知的財産推進計画2012に加えるべく、『知財人財育成プラン』が示され、事業戦略・イノベーション戦略を主軸とした「事業起点型サイクルモデル」を加えた視点が不可欠との認識が示されている。

『知財人財育成プラン』では、『知的財産人材育成総合戦略』を尊重しながらも、「技術起点型サイクルモデル」と「事業起点型サイクルモデル」を使い分け・組み合わせなどを適切に行う総合的知財マネジメントを行える人材の育成確保が急務とし、このような人材を『知財活用人材(知財マネジメント人材)』と呼んでいる。

ちなみに、『知財人財育成プラン』においては、『人材』(human resource)でなく、『人財』(human capital)の字を当てている。その理由は、知財戦略を支える優秀な人の価値が高まっているからとされているが、個人的にはなんだか嘘くさくて好きになれないのと、変換が一発で出ないのとの両方で、本稿では『人材』で統一させている。

いずれにしても、知財人材育成については、『知的財産人材育成総合戦略』と『知財人財育成プラン』の二本立てになっているのが現状のようである。一応、『知財人財育成プラン』にも、「相互補完的に実施されるべき」とか書かれてるし。