少し前になるが、BLJ(ビジネスロー・ジャーナル)の2013年3月号に「紛争解決における効果的なリスクの取り方」(米国弁護士 一色太郎氏 著)という記事があった。同著者による同旨の記事は、2012年2月の知財管理誌P141にも「米国訴訟マネジメントについての考察」という形で掲載されている。
BUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2013年 03月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: レクシスネクシス・ジャパン
- 発売日: 2013/01/21
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これは、「訴訟初期に包括的な法的責任および事業へのリスク等の評価を行い、紛争解決戦略を策定するプログラム」であるEarly Case Assessment (ECA)の紹介であり、その流れを引用すると、以下のようになる。
一般的には、訴訟提起から90日以内に行われる、とされている。(1) 基本情報の収集と訴訟チームの編成
(2) 主要関連事実の調査
(3) 証拠保全と情報管理
(4) 「事業で勝つ」ための訴訟解決を探る
(5) 担当裁判官、相手方代理人らの調査
(6) 法的リスク評価
(7) 損害額とコストの見積
(8) 適切な和解の見極め
(9) 和解戦略の策定
(10)訴訟戦略の策定
(11)レポートの作成
これらを読んだときの感想としては、正直なところ
というところだった(失礼)。 私が管轄している範囲内での紛争は特許侵害訴訟に限られ、似たようなタイプのものが多いし、会社の規模も小さいので、チームを編成するほどのこともなく、担当と2人で動いて上記のステップのおおよその所を1〜2週間であたりをつけて動かしている。そうでないと、代理人の選定も適切なところを選びにくいし、初期の社内の承認も取りにくい。概ねいつもやってることだよね?
普通の企業の渉外担当だったらやるんじゃないの?
やらなくて適切な解決って無理じゃん。
とはいえ、やっていなかったのは(11)レポートの作成 である。スピード重視で適切に動かそうとすると、きっちりしっかりと詰めた形で報告書に仕上げるだけの時間の猶予がなく、そこは担当の頭の中で片付けてとりあえず2人で合意を取り、必要な部分部分のロジックだけを上層に上げて承認を取っていた。
しかし。さすがにずっとこれではまずいよねぇ、ということになり、全体が見える形でレポートを書き、それを添付する形で応訴の方針、和解の方針についての稟議を上げよう、ということにしてみたところ、これがなかなか手強い。
頭の中で分かっていたことを、なじみのない方々にも納得がいくだけの理由付けを持ってストーリーにくみ上げてきっちり書く、ロジックをはしょらない、常に全体の中での位置が見えるようにする、短く収めることを優先して情報を捨象しない、と縛りをいれてレポートを作ってみると、全部網羅的に考えていたようで実は落ちていたとか、三段論法で積み上げていたつもりがステップのいくつかが可視化されていなくて書いてみるとジャンプしているとか、思いついたことをだーっと書いてみるとちっとも説得力のある流れになっていなくておかしいなぁ、とか色々起るわけで。
たいていの場合は、頭の中にあることのすべてを吐きだしたつもりでいても全部が出せていない、頭の中は混沌としているので論理的に考えているようで実はちゃんと一本の線にできあがっていないことが原因で、書きだして見て詰めていけば落ちている部分は補充できるし、書いてみたら結論が違っていたなんていう致命的なことはないんだけれども、いやはや結構な時間がかかることかかること。
おそらくいくつかのケースで作って積み上げていけばそれがモデルとなるので徐々に楽になるとは思うんだけど。ちゃんと全部見えるように出しておくって大切だわね、と改めて思ったことだった。やってるつもりって、怖いわ。