知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

District Courtからみると

シンポジウムの第2セッションその2はアルサップ判事による「米国連邦地方裁判所判事から見た特許訴訟問題」。

アルサップ判事は、現在カリフォルニア北部地裁の裁判官で、15年の裁判官経験、25年の弁護士経験。裁判官として約250のケースを扱ったとのこと。周知のように、Northern District of Californiaは、4番目に特許事件が多い裁判地として知られている。判事によれば、特許事件というのは、"hardest to manage"らしい。

さて、特許について、アルサップ判事は以下の2つの原則があり、米国は、第1の原則についてはうまくやっているものの、第2の原則がうまくいっていない。そこに現在の問題があると考えているそうである。

<第1の原則>
新規で非自明な発明をした者に権利を与えることがイノベーションを促進する。

<第2の原則>
既に公知のもの(public domain)に対して権利を与えることは間違っており、イノベーションを阻害する。

判事が第2の原則がうまくいっていない、と考える理由は、取り扱うケースの3分の1から40%くらいは特許が無効であるかvery weakであるとの経験に基づいているとのこと。判事が体感されるケースでそんな高率だとすると、そこまで行かずに和解してしまうケースの方が多いわけで、そういうものはさらに無効っぽいものが多くて半数くらいそうじゃないかなどと考えてしまった。

また、判事は、損害賠償について明確な基準が確立されていないことにも原因があるのでは、と述べられていた。現状使えるルールというのは結局Georgia Pacific ruleしかなく、これは15もあり、あらゆることが「あり」になってしまうため、ルールがあってないようなもの。(Rader判事はbright-lineルールを作るのがCAFCと言われていたが、損害賠償については存在していない、と何度も言われていたのが笑えた。)

このために、やってみないと損害賠償額がどうなるかが不明で、原告側にやってみるインセンティブが生じ、逆に被告側には不確定要素が多すぎて大負けするリスクを忌避する傾向が生まれる、そして、陪審員は多額のverdictを好む傾向に繋がっている、との指摘だった。