知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

RAND宣言違反についての控訴管轄はCAFCでなく第9巡回区(Microsoft v. Motorola)

Microsoft v. Motorolaの控訴

The Essential Patent Blogの記事に、MotorolaのRAND義務(ITU H.264とIEEE 802.11の必須特許)違反を巡ってMotorolaとMicrosoftが争っているケース(ワシントン西部地裁:Robart判事)について、MotorolaがCAFCに控訴していたところ、Microsoftが第9巡回区への移送を申し立て、CAFCがこれを認めた、ということが書かれている。

このケース自体、アメリカとドイツで裁判をやっていて、それもドイツで差止判決を得たものがアメリカでは認められなかったりして大変ややこしいのだが、それについては、引用元を参照して頂きたい。大変よく整理されていてありがたいばかり。

RANDのRoyalty計算

ワシントン西部地裁へそもそもMicrosoftが訴えたのは、Motorolaの提示したRoyaltyがRAND義務を負っているものなのに高すぎるからRAND義務違反、というものだったため、では、RANDのRoyaltyはいくらが妥当なのか?という判断が要求され、それについてRobart判事が判決を書いており、これがRAND royalty rateについての初の判断になった(引用元の参照記事から判決文(order)自体を読むことができる。但し、207頁ある超大作)。

その後、陪審によるtrialが行われ、MotorolaのRAND義務違反が認定され、かつそれが不当だというMotorolaの申し立ても却下されている(詳細は、こちらの記事。この中に、Robart判事の陪審員への説示が引用されていて興味深い。)。この申し立て却下に対して、MotorolaがCAFCに控訴を申請していた、という構図である。

昨年あたりからRANDを巡っては、世界的に旬になってきていて、日本でも知財高裁の大合議にかかったりしているわけだけれど、アメリカでも幾つか裁判になっている。これについても、引用元記事にわかりやすくまとめられているが、一応ここでも上げておく。リンク先は、いずれもThe Essential Patent Blogの関係記事。

1)本件 Microsoft v. Motorola (ワシントン西部)
2)Innovatio ケース (イリノイ北部)
3)Realtek v. LSI (カリフォルニア北部)
4) Ericsson v. D-Link (テキサス東部)

まだどれも確定しておらず、控訴審の判断が出ているケースもない。上記2)のInnovatioケースは、どうやら和解に進みそうな様子で、控訴審へは進みそうにないとのこと(既にCiscoが和解で決着している)。3)のRealtekケースは、第9巡回区へ控訴中。4)のEricssonケースは、CAFCに控訴中。本件は上述の通り、CAFCじゃなくて通常の巡回区に回ることになった。  

引用元記事に述べられている通り、損賠賠償については通常は陪審マターなので、その算定プロセスは表にでて来なくて、金額だけが結論として示されるため、再現性がないというか、あまり後あとの参考にしにくいという性質がある。その点、本件は、陪審ではなくてbench trialのため、詳細にそのロジックが判決に書かれていてとても興味深い。ただ、多少残念なことに、この上訴先がCAFCじゃなくて通常の巡回区に行ってしまったため、控訴審でどのような結果になるにせよ、地裁が示しているロジックが今後の他の管轄での裁判やCAFCでの判断に踏襲されるという可能性はかなり低くなったということらしい。