知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

知財渉外屋の育成法

某氏に、特許侵害訴訟とかの戦略や方針を立てて実行する人の育成ってどういう方法がいいの?

と、ど真ん中ストレートの質問を受けた。

いやそれって、難しくて決め手にかけるんだよね〜。モゴモゴ。と言葉を濁していたら、

じゃああなたはどうやってできるようになったの?と問われた。

私自身は、このブログにも何度か書いているが、
(1)初職の10年弱が知財法務職で、ペーペーだった当時自分でやったことは数少ないが、一線で活躍していた直属上司の補助職を通して色々な見方ややり方を吸収できた
(2)仕事に復帰してからの10年弱は、特許事務所勤務の弁理士としてひたすら権利化業務をやったので、対象としての特許について実務的な見方が身についた。
この両者のシナジーで現在があると思っている。

今も昔も自分の知財プロフェッショナルとしてのメインフィールドは渉外というか知財法務というかにあると思ってきたので、(2)の間も勘?が鈍らないようにそれなりのインプット(書籍や研究会、少ない機会の契約仕事など)は心がけていた。(2)の仕事は元々(1)をやるのに隔靴掻痒感が強くて始めたようなものだし、退職出産後の自分の状況ではそれしか仕事がなかったこともあるけれど、そのまま一生続ける気はあまりなくて、いつかは自分の土俵に帰ると思い続けていた気がする。

そんな私自身の育ち方は、正直育成法としては参考にならない(苦笑)。

で、知財協などの集まりで話をしていても、渉外職は一番人を選ぶので残念ながら育成が非常に難しいというのが一致した見方のように思う。候補としては、権利化業務経験のある技術者か法務職くらい。バックグラウンドが前者は理系で後者は大抵文系(法学部)。

知財渉外では、客体が特許で、正直確固たる外延がない。文言解釈によってどうしても幅が出る。加えて、それにカバーされる対象としての製品があるわけで、さらにグレーゾーンは増える。従って、相手のある訴訟や交渉では、このグレーゾーンを互いに引っ張ったり押し出したりして自分が有利になるように進めるのが基本となる。この際『本来この発明の趣旨は…』とか『発明者の認識は…』とか言って見ても始まらない。けれど、技術者の多くは、どうしても発明のそもそもの趣旨="正しい解釈"に引きずられる傾向があるように思う。

発明は技術的思想だけれども、特許はそれを言葉で表現したものであり、既に技術そのものではなくなっている。だから技術的に何が正しいかを求めてみても解決にならないのだが、頭で分かっていてもなかなか割り切れないものらしい。これでは残念ながら相手にそこを突かれたときに対応できない。これを繰り返すと『やっぱり向いてないわ。コイツ』となってしまう。そして、権利化をずっとやってきた技術系知財プロは、こういうナイーブ系が多い。権利解釈の基本は身についているのだから、もう一歩だと思うんだけど、そこが越えられる人は本当に少ない。

だから、冒頭の某氏が言うように、
「頭のいいやつを2年くらい実践投入すればなんとかなるんじゃないの?」
といわれても、
いや、『頭の良し悪し』じゃないのよ。本当に向き不向きがあるんだってば。という答えになってしまう。

向いてる人を、半端じゃなくケースが多い職に投入すればそりゃそれなりに育つとは思いますが、向き不向きの見極めは、投入して見ないと分からないんで。

最近思うのは、法務系の技術アレルギーが少ない人を鍛える方が目があるかもしれないということ。この場合でも、クレーム解釈はガッツリやれるようにしないといけないし、技術説明についてこれるのはもちろん、適当な技術担当の説明に的確にツッコミを入れられるだけの論理性+αが必須とは思うけどね。ここは実証実験開始したところなので乞うご期待。