知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

『インビジブル・エッジ』より(1)

標題の本、出版当時(2010年10月。原書は2008年8月)知財クラスタでは当然ながらけっこう話題になって読まれていたと思うのだが、なにしろ最も渉外に忙殺されて突っ走っていた時期なので、この頃はほとんどまともに腰を据えて本が読めていない。ということで、今更ながら読んでいる。

インビジブル・エッジ

インビジブル・エッジ

  • 作者: マーク・ブラキシル,ラルフ・エッカート,村井 章子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/10/15
  • メディア: 単行本
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今読むとえ?というところもあるし、全体のトーンが知財礼賛過ぎて引っかかるところも多いのだが、個別の箇所で頷けるところも多いので、抜き書きメモを起こしておく。強調部分は当方による。たぶん何回かのエントリに分けることになると思う。

一ドルあたりの特許取得件数が多い企業ほど、時価総額は大きくなる・・・(中略)・・・特許件数と時価総額の間に何らかの関係があるとしても、その関係性は弱い・・・。たいていの特許は、はっきり言ってほとんど価値がない。また価値のある特許にしても、広く技術や産業の発展という視点からのみ価値があるものが多い。しかし実際に一ドルあたりで莫大な価値を生み出すのは、付加価値の高い技術分野にうまくフィットした特許、たとえばインクジェットプリンターだとかDNA解析といったものである。こうした分野で特許を取らないと、企業の競争優位とはなり得ない。・・・研究開発に投資すると決断しただけでは利益は保証されないのはもちろん、たとえ特許がとれたところで利益が増えるという保証もない。それでも多くの研究は、特許を重視し研究開発投資一ドルあたりの特許件数が多い企業ほど好業績であることを示している。
ただし、市場で大きな果実を産み出すのはずば抜けて重要な特許だけである。それは、使い手に大きなメリットをもたらすような技術、あらゆる企業にとって将来の足がかりとなるような技術をカバーする特許である。(P71-72)

まあそりゃそうである。結局結果論に過ぎない、ということも言える。研究開発投資を行う,知財投資を行う前にはそれが化けるかどうかははっきり言って全く見えていないことが多いのだから。それでも製薬のように成立すれば効果が保証され、かつ特許がなければビジネスモデルが成立しないのがはっきりしていれば、投資する一手になるけれど、藪の中にある技術分野ではさらに難しい。

この後、株価のかわりに産業セグメント別の総利益を把握、その産業のバリューチェーンの各部分の知財依存度から知財が経常利益に直接影響を及ぼす度合いを計算する、となっている。その『知財依存度』ってどうやって出すんだ?というのが説明されていないので不明なのだが、結果として知財志向が強い産業としては、製薬産業を筆頭として、ソフトウェア、半導体、医療機器、通信機器などが挙げられている。インテルの例が挙げられているが、インテルがオープン・クローズで特許を使ってがっちり儲けていることはよく知られているし、半導体産業は特許の塊であること、それで食べているARMやQualcommのようなメーカーもあることもよく知られているので当然ながら知財志向は高いわけだけれど。。

製薬業については、特許が生きている間は高い利益率を誇り、特許が切れてジェネリックが参入したとたんに価格が下がって利益率が落ちるというのが繰り返されるため、特許の有無による効果が明示的に示されているので分かりやすいのだけれど、その他の産業ではあったからこの利益率、なかった場合はこの利益率、という比較実験?が存在しないので本当のところどうなんだ、というのはよく分からず、軍拡競争のようなところがあるのは否めないと思う。