知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

『産業の発達に寄与』ってなんだろう

第一条  この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

言わずとしれた(って知財クラスタ限定だけど)特許法1条(目的)である。なんでいきなり目的条項、といえば、ちょっと考えさせられることがあったから。

本日は、午後からNPE訴訟関係の研修だった。なぜだかカレンダーを確認することをすっかり忘れていて始まる40分前にカレンダーからリマインダが飛んできて吃驚仰天、慌てて会場に走った。一応間に合った。地元で良かった。

研修の内容の詳細は割愛するけれども(経験談豊富で大変ためになった)、その中で、外部から調達してきた特許権を行使するNPE(PAE)のあり方が、特許法の趣旨と異なるとよく言われるけれど、見方を変えるとそうでもないという主張もありなのでは、という指摘があった(講師のお考えではなくて、経済学者あたりからはそう言われそうだよね、という程度の軽い指摘)。

多くのPAEはバックにファンドがいたりして、特許権を流通させて金銭を得る、というビジネスモデルであり、やっていることは実業ではなくて虚業=金融である。でも、それで資金が流動するのであれば、間接的に全体としての産業は発達するのではないか、とマクロ経済的に?言えるのかもしれない。

研究開発投資をしてものづくりから得た利益から金を収集し、それをファンドに配当として回す、ということで、直接研究開発への再投資にはならず、イノベーションの促進には少なくとも直接は結びつかないだろうけど、全体として流動資金が高まれば(塩漬けにして置くより)いいんじゃないの、という話である。

自社でも使われないような特許権をNPEに売り払い、流動化させてその資金を次の研究開発に回すのであれば再投資もされているわけで、遊休資産の活用という観点から見れば、好ましいという主張も十分ありそう。

既に開発投資をしてしまってから(太らせてから)代替手段がない(というかスイッチングコストがかかる)ことを奇貨として権利行使をするところに問題があると言ったのは2011年のFTCレポートだったけれど、要するに、外部調達した特許を行使すること(を目的としたビジネスモデル)が悪なのではなくて、そのやり方が行き過ぎていないか、正当かどうかの問題なのだろう。

製造出荷の前にきっちりパテントクリアランスをして潰すなり回避するなりしておけば後から権利行使される心配なんてないのだから、というのが特許制度の建前(全てが公開されているのだから商売としてやるなら全て知っておくべき)ではあり、それが藪になっているから確実にクリアにできず、予想していなかったようなものを行使されるとか、一定割合で出来の悪い特許が成立してしまうからそういうので行使されると退けるのにコストがかかって仕方がないとかいう問題はあるものの、それは制度設計上の問題で、ある程度は不可避であり、受益者がある程度は負担すべきもの、ということも言えるのかもしれない。

もちろん、技術の進歩に貢献する道具が特許制度なのだとたたき込まれて信じてきた業界人としては釈然としないことこの上ないのだけれど、でもやっぱり、ここまでビジネスモデルとして発達してしまうと、まったくなくなることはないだろうなぁ、と思うのだった。

だから、あり方として、高額訴訟費用をたてに脅しつけるのはやめろ、とか、ディスカバリ・ハラスメントはやめろ、とかいう話になっていくのだろう。