知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

パテント・トロール対策法案はもう十分?

標題はちょっと煽り気味で、そこまでの話ではないけれども、3/14のIP Watchdogの記事で、今米国議会で進んでいるパテント・トロール対策法案の必要性に疑問が呈されていた。概要としては、これ以上の改正を、今やるというのは適切ではないのではないのか、AIAで効果が上がってきている兆候が見えてきており、まだ不十分だと決めつけてさらに今改正を重ねるというのはいかがなものか、というものである。

ここで取り上げられているAIAによるパテント・トロール抑制効果の兆候というのは大きく2つ。

まず、Patents Post Grant Blogが「March 2014 Update to PTAB Trial Statistics」で取り上げている、USPTOのPatent Trial and Appeals Board (PTAB)に対するレビューの申請がうなぎ登りだ、というデータ。確かに、この Inter Partes Review (IPR)の増えっぷりと行ったら半端ない。2014年はまだ2月しか経っていないというのに既に2013年の半分を超える数字になっているので、1年経ったらもの凄いことになりそうである。

この件数の増えようは、制度変更前のinter partes reexaminationが使い勝手が悪く、いまいち人気がなかったことに比べて、これを改善するために種々の仕掛けをしているIPRへの期待の表れで、まだ実際のdecisionが数件しか出ていない段階では、実際の効果を評価してのものではないだろう。ただ、仕掛けの一つである審理期間の制限や和解による終結が可能になったことは訴訟の被告側からの対抗手段としての使い勝手が向上していることは実際評価されていると思う。和解によって手続が終了しているIPRのケースはかなり割合として出てきてはいるようだ。

審理期間が短いことが制度上保証されていることで、訴訟手続をその間停止する申立が多くの裁判所で認められやすくなっているという傾向もある。reexaminationの時代は、審理期間が数年単位でかかっていたために、裁判所でなかなか停止が認められなかった。ただし、この点については、かのテキサス東部地裁ではあいかわらず認めない決定が出ているようなので要注意である(嗚呼テキサス!)。

もう一つ、前記のブログで抑制効果の兆候として上げているのは、2014年1月と2月の特許訴訟件数が前年に比べて落ち込んでいるということである(この点についての同ブログの詳細記事)。これによれば、2014年1月の提訴件数は322件、2013年の同月は490件なので昨対65.7%。2月は2014年が456件で2013年が548件のため昨対88.2%となる。特に、2014年1月はAIAによりanti-joinderが導入されてから移行最低の件数となっており、2月も昨対で落ち込んでいることから、提訴件数が低減傾向になったのではないかという論調である。

確かに、2013年と2014年の1-2月を比べるとその通りなのだが、もう少しレンジを広げて例えば2007年以降を見ると、例年1月は件数が落ち込み、2月に持ち直す、という傾向があるようで、もっといえば、12月に件数が伸びるので、その分1月は落ち着くということのようである。要するに、holiday seasonを挟むので、休み前にボールを投げておきたい心理が働き、被疑侵害者にクリスマスプレゼントが届く、という格好。パテント・トロールも人間がやっていることなのね、ということではないか。

絶対件数で言えば、確かに2013年と比べると2014年は少ないものの、2012年と比べると特に2月は似た水準まで回復しており、低減傾向にあるのかどうかはこの先もう少し見守らないと分からない、というのが正直なところである(そういうお断りは上記のブログにも書いてあるけれど)。

でまあ、これらに加えて、昨夏に発表されたGAOのレポートでは、PAEが諸悪の根源というのは誤解を含んでおり、問題は特許の質の方にあるではないかという指摘もなされているのだから、という訳である。上記ブログの別記事では、このレポートについても取り上げられている。

で、じゃあいま米国で進んでいるパテント・トロール対策法案ってどうなってるんだっけ?と思って調べたところ、親切なまとめのサイトを発見した(PATENT PROGRESS’S GUIDE TO PATENT REFORM LEGISLATION)。これによれば、現在提出されている法案は以下の通りでなんと12本もあるのね。
1) Innovation Act (H.R. 3309)
2) Patent Transparency and Improvements Act (S. 1720)
3) Patent Quality Improvement Act (S. 866)
4) Patent Abuse Reduction Act (S. 1013)
5) Patent Litigation Integrity Act (S. 1612)
6) Transparency in Assertion of Patents Act (S. 2049)
7) Demand Letter Transparency Act (H.R. 3540)
8) Innovation Protection Act (H.R. 3309)
9) Patent Litigation and Innovation Act (H.R. 2639)
10)SHIELD Act (H.R. 845)
11)Stopping the Offensive Use of Patents Act (STOP Act) (H.R. 2766)
12)End Anonymous Patents Act (H.R. 2024)

よく報道等で取り上げられているのは1)と2)ではないかと思う。1)については、上記サイトにもあるように、下院を昨年末に通過して、現在上院で審議中である(こちらも参照)。また、最近は被告が製造者ではなくてその先のユーザーに広がりを見せていることから、消費者保護という立ち位置で、州レベルで対策法案が成立したりしている。こちらの記事によれば、最近ウィスコンシン州で成立、これまでに、ヴァージニア、オレゴン、ヴァーモントで同種の法が成立、ネブラスカでも立案中のようである。

現在のPAE訴訟花盛り状況の原因というか真因がどこにあって、それはどう対策されるべきかというのは色々な要因が絡まっていてそうそう一つに片付くものではないし、それについて個人的に思うところもあるのだが、長くなってしまったので、今日のところは情報整理の段階で止めておきたい。