今年の関西特許研究会(主に関西地区の弁理士で構成する私的研究会:KTK)の夏季セミナーは、宝塚のホテル若水にて。元キヤノン?知的財産法務本部 契約・渉外センター所長で現在大阪工業大学大学院 知的財産研究科教授 田浪 和生氏の講演。
テーマは、企業の知的財産管理 -- 権利行使を見越した明細書作成 --
例のインクカートリッジ事件を題材に、消耗品の知財戦略ということだったが、事件自体はみんな読んでいるとかどこかここかで扱われているのが普通の知財人だと思われるので、レジュメにはあったが詳細は割愛された。以下、講演中に印象に残った点のメモ。
■インクカートリッジ訴訟(対リサイクル・アシスト、キヤノン勝訴)事件
税関の水際差止を請求したが、特許侵害は判断困難なので裁判所でやってくれと言われた。
税関用に外観からわかりやすいラッチ部分の特許(特許2801149号)も使用
⇒裁判で無効判断され失敗に終わる
■消耗品事業の知財戦略
・消耗品とは:
本体(プリンタ)に対して交換されるもの(トナー、インクカートリッジ)
・消耗品事業はうまみもリスクもあるビジネス
(うまみ)
アナログカメラとフィルムの関係⇒消耗品を自らの手ですることが悲願
(リスク)
競合品・再生品の発生が不可避
・消耗品事業は本体事業とは別個独立の事業であり、独立して収益を上げる必要がある
本体では競争が激しくあまり利益が上がらない
消耗品の開発・設計に相当のリソースをかけている⇒独自の収益が必要
変形例を多数考えることもあって研究開発費は膨大になっている。
#これはニワトリが先か卵が先か・・・。
消耗品での他社排除をするためにバリエーションを考えるので研究開発費も膨大になっているのでは?要は、消耗品でも受けるビジネスモデルになっているので、ここから収益を上げざるを得ない、というだけのことだろう。
・消耗品のみをライセンスし、ライセンス先が品質問題を起こせば、本体事業に影響が出る。
⇒消耗品のみのライセンス、和解解決はあり得ない。必ず最後まで戦う。
■競合品(機能的同等品)対応:広いクレーム
■再生品対応
・カートリッジ(容器)自体は回収して再利用される⇒消尽
・インク:新たに充填される
インク自体はすでに技術的に完成・成熟しており、新規性・進歩性のある特許が取りにくい
インクの分析は難しい
⇒カートリッジの内部構造に係る特許
・再生品対応を考えると、使用によって壊れ、耐用期間を終える設計がベスト(レンズ付きフィルム)
⇒インクカートリッジでは困難
・リサイクル業者だったらどうするかを考えて出願する=将来を想定しての権利化
使用済みカートリッジではインクが固化して目詰まりしている
↓
洗浄が必須
↓ この工程をひっかける特許が好適
インク注入
・競合がしてくることを想定して出願する
カートリッジの発明者が考えるのは難しい
ユーザーの視点で、幅広い人材を集めてアイデアを募る
・すべてを想定して出願できるわけではない
限られた時間で、できるかぎりのバリエーションを検討
出願時に権利行使できるかどうかまではわからない
結果としてうまくいったというケースがほとんど:結果論
それでも権利行使をすることを考えて種々検討することが重要
■独占禁止法との関係
・再生品ではICチップの内部情報は変更できない→インク切れという表示になる
インク切れ表示の場合に本体を動作させないと競争を阻害すると公取に指摘された
⇒動作はさせるように修正した
・公取がいつも正しいわけではなく、戦えば違う結果が出るかもしれない。
が、公取の調査が入る、公取と戦う会社というのは会社のイメージを損なうので自制している
・インクのリフィル業者に対して権利行使することは、やりすぎと判断される可能性が高いと見て自制している。
他社に取られてはまずいので、出願はしている
■特許の製造
アイデア段階で種々のバリエーションを考えてペーパーパテントで出願する
試作や実際の開発行為をしなくても特許は出せる
発明者全員が知財部員というケースもありうる。
■特許出願のランク付けの基準
他社の牽制(排除)効果がどこまであるか=自社製品・事業を守る
自社実施品はそれほどランクが高くない
再生品・模倣品対応の特許は必要だがマイナーなもの:ランク低
競合他社プリンタメーカーを牽制する出願が重要