知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

中国特許制度研修:実用新案

2011年の中国における特許出願は52万6千件、実用新案58万5千件、意匠が52万1千件。実用新案についていえば、そのうち外国からの出願は4千件で、残りは全て中国国内出願。特許においては、外国からの出願が11万件あるから、外国人から見ると、あまり実用新案は評価されていないように見える。講師によれば、5〜6年前には特実の同日出願が流行したが、すぐに下火になり、あまり外国人が実用新案を選択することは少なくなった。日本企業についていえば、昨年から実用新案への関心が大きく高まっているとのこと。

日本における現在の実用新案のイメージは、特許と同程度の手間暇コストがかかるにもかかわらず、無審査なので質が担保されていないいわば瑕疵ある権利であり、権利行使しようと思えば技術評価書が必要で、その評価が肯定的に出るとは限らないから、いざ行使の段になって慌てないためにもどうせなら特許で出願しておくべき、程度のものだろう。『実用新案登録済』だけ書きたい、特許では権利化できる見込みが薄い、ライフサイクルも短い、くらいしか使いでがないように思う。

対して、中国では、同じ無審査登録でありながら、「当局がちゃんと登録したものだから」ということで特許と同等に尊重されるイメージがあり、技術評価書制度はあるものの、権利行使の前に技術評価書の提示が義務づけられているわけではないし、無効審判でつぶそうにも、進歩性の基準が特許よりも明確に低いのでなかなかつぶれない。そのわりに、侵害訴訟では特許と同等に損害賠償も認められる、といいことづくめのように見える。もちろん、対象は物でなければならないし、権利の存続期間は短いから、実用新案だけでオッケーというわけにはいかないのだけれど。

日中実用新案の比較
日本中国
権利行使時の評価書提示義務ありなし
権利行使時の高度な注意義務ありなし
権利行使後無効になった場合の賠償責任ありなし
実用新案実施者の過失の推定なしあり
進歩性の判断基準特許と実質差異なし特許より低い
中国実用新案進歩性の判断基準
特許実用新案
審査基準従来技術と比べて
際だった実質的特徴
顕著な進歩
を有すること
従来技術と比べて
・質的特徴
・進歩
を有すること
考慮する分野・当該発明が属する技術分野
近い技術分野
関連する技術分野
・当該発明が属する技術分野
引用する従来技術1件、2件、又は多数原則1件又は2件
また、先日のエントリにも書いたように、実用新案は無審査なのをよいことに?従来技術そのままのような出願も大量になされており、ここに改善の余地があるとは当局も認識しているらしい。これほど無効審判における進歩性の判断基準が特許に比べて低いにもかかわらず、無効審判になると半数程度が無効になるのは、従来技術と同一のものがかなりの数含まれているから、という話だった。制度として問題点は含むけれどもちゃんとした内容で出願しておけば使える権利というところだろうか。