知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

Royaltyと税金

先週、Royaltyの会計処理についての話を書いた。

和解&ライセンス契約の相手が海外の会社の場合、その支払対価が源泉税の対象になるのかならないのか、という側面の検討も必要になる。ライセンスの対価=Royaltyは、租税条約にいうところの『使用料』に相当するため、基本は源泉税の対象になる。これが『和解金』ということになれば、それは『使用料』ではなく、従って源泉税の徴収義務もない。

プールライセンスのライセンサーなどは、ランニングロイヤルティ徴収業務に手慣れていて、源泉税の納税義務があることも先刻承知、それに必要な手続にも慣れているので問題はない。問題は、アメリカでライセンス専業会社を営み、どちらかといえば一時金で和解解決をして数多くの会社から小金を受け取ろうともくろんでいる特許権者の方々。源泉税なんて念頭にないし、1セントだってまからない、というスタンスなので、条約で決まっているから義務なんだと説明したところで、なかなか理解が得られない。

現在は、日米租税条約上、アメリカ企業の源泉税は免税扱いになるので実際の納税は発生しない。が、免税を受けるためには、やはり租税条約に基づく届出書を税務署に提出し、その上で支払を行う必要がある。そして、この届出書には支払の受領者=ライセンサーである米国企業の署名が必要なのだ。

和解契約の締結後、支払を行い、訴訟を取下げる、といったスキームの場合、原告特許権者側はひたすら契約締結と支払の実行を急がせることが多い。こちらは税務署ともめたくはないので支払時にちゃんと租税条約の届出をすませておきたい。PDFでフォームを送付し、サインを促しても、うまく伝わらなかったり、必要項目に情報が埋められていなかったり、不慣れなんだとは思うが、急かすんだったらやることやれよ〜、と叫びたくなることもしばしば。

さて、当社の場合、米国に販売会社があるので、米国訴訟の被告になっているのはたいていその米国会社である。その訴訟の取り下げのために和解契約をするとなると、普通に考えれば契約当事者はその米国会社。支払を行うのも米国会社。が、この会社、ただの販売会社なので、総務・法務機能はほとんど存在せず、いわんや知財機能をや、って感じである。なので、通常、そのあたりは全面的にこちらが面倒を見ているというか担当をしている。

和解金というかRoyaltyというかの支払にしても、設計開発・製造責任において供給元である当社が負担するというスキームで稟議も取るし、実際に負担もする。親会社の責任で、といかないのが複雑なところなんだが(当社と米国販売会社は兄弟会社に過ぎず、親会社は別に持株会社が存在する)。

このため、契約が米国会社と特許権者の間で締結される場合(もちろんライセンスのカバー範囲は当社グループ全体とするわけだが)、支払は、当社→米国会社→特許権者という形となる。この場合、もちろん米国会社→特許権者は「和解金+Royalty」の性質を持った支払なのだが、当社→米国会社はどうなんだろう?米国会社を介しているだけで、やはり「和解金+Royalty」の支払なのか?しかし、当社が供給元としての特許補償を行うという形だと考えると、ちょっと違う気もする。第三者に特許補償を求めた場合、それをRoyaltyとして考えはしないだろうから。同じグループ内だと違うのか??

経理部に問い合わせたところ、米国会社を単に介在させているだけなので、当社が当事者で支払を行う場合と変わらないとの答え。で、和解金名目の支払ということで源泉税は不要、届出も不要という結論になったのだが、税務監査でつっこまれないことを祈る。

ちなみに、このような源泉税の心配をしなくてはいけないのは相手が海外の場合のみで、国内会社であれば不要である。そのかわり、国内会社相手だと消費税の上乗せがある。これも、和解金というか損害賠償金であれば消費税は不要らしいのだが、単に不争義務がある程度では損害賠償金扱いにはならず、特許訴訟や警告に基づく和解はその特許のライセンス対価=使用料という見方が税務上定着しているらしく、ほとんどの場合消費税は加算される。