知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

決めるということ

金曜の夕方、東京支店で店じまいをしかかっていたら、商標担当の女性が泣き出しそうな顔をして、

これから私どうやって決めていったらいいんでしょう。

と聞いてきた。10月1日を正式な移行日としていて、引継ぎ期間扱いの昨今は、どんどん私に相談せずに業務を遂行・完結すべしというプレッシャーがキツくなっているらしい。

今までの業務のやり方としては、担当として彼女は調査なり出願なりの必要な作業は行うんだけど、その結果について、例えば使用可とするのか否とするのか、この指定商品で十分なのかどうなのか、異議申立すべきなのか、といった結論は自分で立てて私に承認を求めるというよりも、材料を揃えて私の前に並べてみて決めて下さいというやり方でやってきたわけ。本人によれば、自信がなくて決められないので、決めろと無理に言われたら、例えば少しでも類似していたら全部ダメとか、偏っちゃうと思う。それじゃあ会社の判断としては良くないとは思うんだけど、どうしたらいいのかわからない、ということだった。彼女がこの先商標業務を一人でするように求められているわけではなくて、管理指示者が上につくんだけれど、かれもまだ商標業務の経験が短かくて、同じように判断を求めても止まってしまう気がするとのこと。

意思決定をしようと思うと、何が正しいかというよりも、何がこの場合適切なのかを考える必要があって、その判断材料としては、商標の調査だからといって類似の度合だけではもちろんなくて、使い方、誰がどうやって使うのか、それを守っていけるのか、世の中の類似の使い方はどうなのか、権利者がいたとして、クレームをつけられるリスクはどの程度なのか、等など色々あるわけで。私自身が判断するときも、いろいろなファクターを勘案してまあ今回はこんなもんかという感じでやっている。別に商標業務の実務経験がそれほど豊富なわけじゃないので、基本的な知識の上には常識とか社内経験とかを組み合わせて考えているように思う。

それに加えて、正解があるわけではないから、結論はいくつもあり得るので、自分はどうしたいかという視点ははずせない。もちろん、『自分が』といっても、個人的にどう思うかじゃなくて、この仕事をミッションとして持っている自分がその遂行目標に照らして達成するためにはどういうやりかたで行きたいのか、それをこの件に当て嵌めたらどうか。どうしたいのか。ということである。

意思決定をする立場になると、自分がどうしたいかということを日々問われる気がするんだけど、そこに意思が感じられない人というのはじつは結構多い。決めない人というのは大抵ポジションによらずそういう傾向があって、そういう人と組んで仕事をせざるを得ない場合は難儀である。

で、件の彼女に対しては、決める時に何を考慮・検討したのか、どういう理由付けでその結論としたのかを、できるだけ書き出して貯めていくこと、類似の件が来たら前のケースを参照して考えてみて、さらにブラッシュアップすること、をお薦めした。この業界で20年も仕事をしていると無意識にやってしまっているのだけれど、見える化して人に伝えていくようにもしなくては、と改めて思ったことだった。