9/6(土)〜9/7(日)に、KTK(関西特許研究会)の夏季セミナーが京都で開催された。私は関西在住ではないが、KTKの会員にはなっており、時折研究会にも参加している。今回は、9/6(土)に行われた講演の講師が知財高裁の飯村判事だったため、宴会や宿泊は不参加だがセミナー部分のみ参加した。
飯村判事といえば、数々の判決における『付言』でこの業界では著名な裁判官である。その判決文の下記振りからも人となりがうかがえるような気がするくらいだが、ご本人の生の声を聞く機会は今までなかったので、かなり楽しみにしていた。非常にポリシーのはっきりした判決を書かれるという印象なのだが、実際、
という趣旨の発言をされていた。このような判決のわかりやすい例として判事が挙げられたのは、著作権の『スローガン事件』である(スローガンのような短いものであっても著作物性は認めるが、類比判定のハードルを高くすることでバランスを取る)。紛争解決モデルとして役に立つような判決、どのような枠組みで考えるとよいのかがわかるような判決を出したいと思っている
さて、今回のセミナーのテーマは『最近の知的財産紛争について』(特許権紛争と商標権紛争を中心として)。3分の2が特許権紛争の話、特に特許法104条の3の影響についてであった。
飯村判事の認識としては、現状の日本における特許侵害訴訟は予測可能性が低く、紛争解決機能をうまく果たしていない。その原因として、進歩性の判断手法による構造的な問題と104条の3が挙げられる。
日本における進歩性の判断手法は、TSMテスト(米)に比べてハイレベルで洗練されているが、だからこそ使いにくいという面もあり、客観化には限界がある。このため、判断する主体によってばらつきが避けられない。そして、104条の3の導入で、侵害訴訟において無効判断が可能になったため、進歩性の判断主体(=アンパイヤ)が増えることになり、権利者は全勝(侵害訴訟&無効審判)しないと保護されない結果になっている。たしかに、104条の3によって被疑侵害者にとっては迅速な解決が図られることになったが、権利者にとっては何一つメリットがない。現在、侵害訴訟で向こうの抗弁が提出された案件の70%で無効抗弁が成立している。そして、90%を超える事件で無効の抗弁が提出されている。
このような環境下において、裁判所は権利者側の公開の代償を失わせないような工夫をすべきであるし、当事者はこのような環境の変化を前提として権利化(多項制・分割の活用など)、活用(均等論など)をはかるべき。
ところで、商標法においても、特許法104条の3は当然のごとく準用されている。が、この準用が妥当であるかどうかについての論議はほとんどなされなかった。商標登録が無効である=過誤登録の場合における第三者の保護は、そもそも商標法26条にビルトインされており、これまでの裁判例の集積で衡平の原則による解決が図られてきた。特許法104条の3の準用は、このような水の中に石を投げ込むようなものであるが、制度が変更された以上、これを前提として、いままでの解決手法を総点検すべきである。
立体商標についてもテーマのひとつとなっており、会員としてはそこに注目していたのだが、飯村判事としては、あまり興味の中心ではないようだった(苦笑)。