知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

中国特許制度研修:同一発明の判断

彼我の違いシリーズ第2弾ということで。

中国では、同一の発明について、発明専利と実用新案との重複出願が可能である(専利法第9条)。

同一の発明創作には1つの特許権のみが付与される。ただし、同一の出願人が同日に同一の発明創作について実用新案と発明専利を出願する場合、先に取得した実用新案専利が消滅しておらず、かつ出願人が当該実用新案専利を放棄するという意思表明を行えば、発明専利を付与することができる。

この場合の放棄は通常と異なり遡及消滅しないため、特許成立までの間実用新案で当該発明の保護をすることが可能となるという仕組みである。

この重複出願の対象は、『同一の発明』であるため、何が同一か、どこまで同一か、が問題となる場合がある。その一例として、質問で出されたのがカテゴリー違いの発明(物と方法)について。もちろん実用新案では方法は保護されないので、実用新案の対象が物で特許が方法(製造方法とか)の場合についてである。

日本では、異なるカテゴリーの発明は、どのような切り口で発明たる技術思想を表現しているかの問題であり、技術思想としては同一であるから同一発明である、という解釈が確立している。(注)判例による、と説明されたが、判例を特定できない。不勉強ですみません。ご存じの方、コメントでも頂けるとありがたいです。

一方、中国では、審査指南において、カテゴリー違いは異なる発明である、と明記されているらしい。講師の説明に依れば、この違いは、日本において発明が『技術的思想』である一方、中国では具体的な『技術法案』であることから出てくるのではないか、とのことだった。

あまりそれ以上の突っ込んだ話には発展しなかったのだが、単一性の判断とかにも影響するし、方法クレームと物のクレームの両方を含む特許出願をしていると、書きぶりを両者できっちり揃えろとか要求されたりするのもここが根本にあるのかもしれない、と思ったりした。

いずれにしても、カテゴリーの異なるものは、ここでの『同一の発明』には該当しないので、重複出願の宣言なども不要で、それぞれ別々に実用新案と特許の権利保護を追求することができるということだった。

以下、旧ブログへのコメント

538: by ドクガク on 2012/09/04 at 12:27:05
単なるカテゴリー表現上の差異である場合は同一である旨を判示した判例でよろしければ、審査基準に載っています。
以下、審査基準からの引用です。

東京高判昭45.5.20(昭和44(行ケ)93)
…表現形式上前者は「物」の発明であり、後者は「方法」の発明であるけれども、その技術思想の実質は、
コンクリート製造の際に添加する薬品すなわち強化用混和剤にあるものであり、両者その使用領域を全く同
じくし、また作用効果においても同一であることを認めることができる。右に認定したところからすると、原出願発明と本願発明は、同一の使用領域に有利に使用し得る新規な材料を見いだすことが基礎になっており、本願発明は原出願発明にかかる物の使用目的に従った自明の使用行為にすぎないので、それ自体何らの
発明性を有しないものといわざるを得ないから、結局、原出願発明と本願発明とは同一の発明と解すべきで
ある。…

東京高判昭53.5.31(昭和48(行ケ)27)
…両発明間には、方法として表現したか、装置の構造として表現したかの差異があるとしても、技術的思
想としては何ら差異はなく、別個の発明を構成するものではないということができる。…

東京高判昭46.10.29(昭和37(行ナ)103)
…引用例は、本願発明の方法を実施する必然的な態様を具体的装置としてそのまま表現したものであり、
また、本願発明は、引用例の装置を使用して行う金属冷間仕上げの必然的な態様を方法としてそのまま表
現したものに該当し、両発明は、まったく同一の技術的思想につき引用例は装置として、本願はこれを方法
として、表現した差異があるにすぎず、両者は同一の発明というべきである。…

539:Re: 審査基準 by senri4000 on 2012/09/04 at 13:10:20
>ドクガクさん

ありがとうございます。
審査基準、ざっとみたのですが、見つけられなかったんですよね。
審査基準のどこに載っているのか特定してもらえませんか?