種々の事情があって、特許担当の育成について3分間(!)で役員・部長連の前でプレゼンすることになった。なにしろ3分間なので、悲しいほどまともなことがしゃべれない。設定自体に無理があるのだが、それは言っても始まらない。ということで、断腸の思いでバッサリバッサリ切りまくって上司に見せたところ、
とさらにバッサリ。えーどーせそうでしょうよ。専門馬鹿なので、素人さんにわかるように組み立てられないんですよぅ〜。とやさぐれかけたが、そこはそれ、上司も素人なので、あらかじめ上司にわかるように組み立てればそれなりに聴衆に訴えるものができるわけで。そして、上司はそのあたりはかなり上手い。私はきっとラッキーなのだろう・・・。全然具体的にイメージがわかない。
ということで、素人にわかる特許担当のスキルレベル設定。まあ、素人向けに説明するには何かの役にも立つかもしれない、ということで覚え書きとして置いておく。
だいたい、その前に、うちに部門ミッションが『特許権の確保』になっているあたりからして非常にしょっぱいんですが、これ以上複雑なことを言ってもわかってもらえないんで、泣く泣く。ここから出てくる特許担当のスキルと言うことで、言わずとしれますが、権利化関係のみになりますです。はい。
特許というものは、目に見えない技術を言葉で書き表したもの、なので、養成されるべきスキルとしては、技術を言葉にできるスキルということになる。レベルとしては、4段階。この設定をするために、上司にヒヤリングをされて、
と言われて。具体的に、たとえば、開発経験者を回してもらうとして、1年目、3年目、5年目にはどのようなことができるようになるのが目標ですか?
と答えたのだが。1年目はまず特許公報が読めるようになることですね。読めて、内容が整理・理解できることです。要素が取り出せて、分解できること。
3年目には、自分で明細書を実際書いてみることができるようになる、ことでしょうか。
それが5年目になれば、もう少し概念化がレベルアップして、上位概念、中位概念、下位概念に展開できるようになる。
最後は特にイメージわきにくいね。どうしてそれが必要なの?
というやりとりを経て、結果、以下の通り。うー、それがちゃんとできないと、広い権利は取れないし、広すぎたときに適切なところまで、狭くなりすぎずにうまく限定できないからですね。
1. 自社の技術がわかる
とりあえず、特許が読めるようになる前に、技術がわかんないと話にならないんでしょ?というのが上司の弁だが、まあそれはその通り。発明を目の前にしても本質が理解できないんじゃどうしようもないわけで。ただ、開発の経験者ならこれはたいてい身についている反面、経験なくこれを達成しようと思うとなかなか厳しくて、次の2をひたすらやることで、このレベル=技術の理解も深めていくしか方法がなかったりする。開発経験のないいまのうちの若手君たちが苦労しているのは、このあたりによる。新卒の特許担当も同じで、発明部門と話をしたり、自分で勉強したりするのと並行して、ひたすら担当の技術分野の先行校報を読むことで技術の理解度を上げていく。
2. 他社の特許を読んで理解できる
読書百遍じゃないけど、公報百件意自ずから通ず、で、大量の公報をひたすら読む。そして、その内容を要約してみる。要素分解してみる。これは、実施形態の要約と特許請求範囲の要約と、両方やってみるとよいと思う。50文字要約をひたすらやるわけ。これを、限られた担当の技術分野で数百件のオーダーでやれば、かなり言葉での技術の理解力は上がると思う。
そして、公報の中身を切り分けて理解できるようになれば、目の前にある発明も同じように切り分けて理解できるようになる。そうすれば、言葉に直した状態で、両者の比較ができ、差異を明確にすることが可能になる。ここで浮かび上がってくる差異こそが、権利を追求する本件の特徴部分になる。
3. 発明を自分の言葉で書き表す
1と2ができて、その発明のポイントが見えれば、次は、自分で特許明細書を書いてみる、ということができるはず。なんていうのはかなり背中が痒いというかなんというか、自分で言ってて無理があるんだけど、どこがどう無理があるのかを説明する時間もないので、そこは華麗にスルー。まあ、『読み書き』というわけですから、『書く』より前に『読む』のができるようにならないと話にならないよね、という程度で。
4. 書き表し方のレベルアップ
抽象度を上げて普遍化する。これによってより広い権利の確保が可能になる。やりすぎると他人の領分に入って権利にならなくなってしまうので、ちょうどいい案配に仕上げなければならない。
とまあ、かなり捨象した話になっているのだが。そして、社内の特許担当に求めたいマストスキルは1と2で、3と4はまあ身につけていて損はないけど、それなりに外部とコラボすれば補うことができるので、オプショナルスキルである、と片付ける予定。
実際は、2と3との間に『自分で書かなくても他人の書いたものが評価できる』というスキルレベルがある。で、ここまでが社内の特許担当としてのマストスキルなのだ。
しかし、これが2のレベルをひたすらやれば養成されるのか、少しでも3をやらないと到達できないのかは議論のあるところ。現状の当社で言えば、
1と2で悪戦苦闘中なのが若手君たち。やっぱり開発経験がないと、公報読む量倍増しないとだめだな〜、というのが最近私の思うところ。
開発経験たっぷりで入ってきた『発掘人』氏は異動直後から2をどっぷり、3をやってもらう余裕がないので2年を経た今もレベル2にとどまる、という感じ。明細書のチェックもやってもらったけど、そのレベルは正直心許ないところがある。やっぱりなんらかのそれ用の教育プログラムがいるんだろうな、という実感。
5年以上やっている『一連託生』の彼も、実際に自分で書いたことはないので、2と3の間かなぁ、と思っているが、そのスキルレベルを厳しく評価したことがないのでよくわからない。中間案件を見るに、あまりほめられるレベルのではないのだが、それはその当時の話だし、事務所案を丸呑みしていただけっぽいし。
ということで、開発経験者を社内異動でもらうのが今回のプレゼンの隠れた目的なのだが(と、上司は言っているが)、やっぱりレベル2から2.5へのレベルアップ方策をなんとか生み出さないと、あんまり状況は改善しないな〜、と書いてて思ってしまった。
ちなみに、大型新人の彼は、おそらくレベル3で、4まで自在に行ってはいないとおもうのだが(これも厳しく評価する機会がないのでよくわからないけど)、やっぱり書いたことがあるというのは大きな強みで、2は問題なく、それを利用して1の理解もわりとすんなりできている感じ。1ヶ月経過して、経験者を採るのがこんなに楽になるということだとは思わなかった、というのが正直なところ。実務的に問題はなく、仕事の進め方も行き届いていて、足らないのは本当に社内事情と製品に関する情報だけなので、これはおそらく数ヶ月でキャッチアップできるだろう。ただし本人はやはり転職直後でキツイみたいなのでそこに目配りしないと、というところである。