知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

中国特許制度研修:補正

現在、日本で特許出願をした場合、拒絶理由通知が出る前で特許査定謄本の送達がされる前であれば、補正をすることができる(自発補正)。審査にかかって拒絶理由通知が出た後は指定期間になるわけだけれども。とはいえ、自発補正の時期的制限が撤廃されたのは平成6年の一部改正で、それまでは出願公開の準備ができた時点(出願から1年3ヶ月)、以降は出願審査請求時と他人による出願審査の請求の通知の日から3ヶ月以内に制限されていた。従って、その昔、私が実務に入った頃(とほほ)は、自発補正と言えば審査請求時の補正であって、審査前の最後のチャンスなのでしっかり見直すような取扱いをしていたように記憶している。

で、現在の実務であっても、審査請求時に自発補正をすることはそれなりにあると思うのだけれど(昔より審査の着手や拒絶理由通知が出るまでのスピードが速くなっているので、審査請求後に補正をしようとしていたら拒絶理由が出てしまう、という可能性も高くなっていることもあり)、あまり補正の時期的制限について神経をとがらせるということはないように思う。

一方、中国では、ご案内のように、補正については時期的にも内容的にも制限が厳しい。
(時期)
・実体審査請求の提出時
・実体審査段階に入る旨の通知書を受け取った日から3ヶ月以内。

ちなみに、中国では公開されないと実体審査には入らない。このため、中国国内の出願人は、出願と同時に早期公開請求をした上で実体審査請求をすることが多いらしい。講師によれば、このような傾向を説明すると『それでは国内優先を検討するのが難しいのではないか』という質問が多く寄せられるが、中国ではあまり国内優先が使われていないとのこと。中国には特許⇔実用新案等の出願変更制度がないので、このために国内優先権主張が使われる程度らしい。

(内容の制限)
・出願時の明細書と請求項に記載した範囲を超えてはならない。
従前のエントリでも書いた悪名高い?『直接勝つ疑いもなく一義的に特定される範囲内』である。『開示された範囲』ではなく、『記載された範囲』なのだから、という説明がなされたりするらしいが、日本の特許法だって『願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。』って書いてあるし(特許法第17条の2第3項)。講師の体感としては、新規事項の追加に関する制限の厳しさは、

(厳)中国→日本→米国(緩)

ではないか、ということだった。

このような新規事項の追加の禁止は当然ながら補正の時期にかかわらず課されるものだが、その他の補正できる内容の制限は時期によって異なる。基本的に拒絶理由時の補正は、審査意見通知書の要求に従って補正するという形を採るので、指摘された事項についてしか補正ができない。但し、実務上、通知書で指摘されていないが出願書類に存在する欠陥の補正に該当し、かつ、権利付与の見通しがある場合には、新たにサーチの必要がない場合に限って補正が認められている。

従って、日本における最初の拒絶理由通知の際の補正のように、新たに請求項をクレームアップする等はできない。ということは、そのような見直しの機会は上述した『実体審査段階に入る旨の通知書を受け取った日から3ヶ月以内』が最後になる。

日本においても昔に比べてどんどん『当初からちゃんと考えて明細書を書きクレームを整備せよ』という方向に行っていると思うが、中国においてはさらにそういう姿勢で取り組まなければならないということなのだろう。ということで、『実体審査段階に入る旨の通知書を受け取った日から3ヶ月以内』の時点において、ファミリー出願のその他の国での審査が進んでいたりする場合には、それを参考にしてクレームの修正を検討することもお勧めとのことだった。