端的に言えば、知財に関して各方面から寄せられる要求に対して会社にとって最適と思われる対応を行う、というのが渉外のミッションである。そして、好むと好まざるとに関わらず(まあ好んでやっているわけだけれど)、年がら年中こんなことをやっていると、『最適解』をいかに出すのかというのを考えざるを得なくなる。
その時々で最適と考えたものも、後から振り返ってみると観点の見落としがあったりする(これを後知恵ということもできるけど)のだが、最近よく思うのは、文字に起こさずに導き出した結論は、偏りがあったり盲点があったりすることが多いということ。これには自分の頭の中だけで出した場合も、口頭でのディスカッションで合意を作った場合も含まれる。
客観的に目に見える形を作り、かつ、いつでもそこへ戻れるように固定しておかないと、その場の議論の流れや思考の流れに引きずられて一定方向に収束してしまうようである。
また、議論をするにも、それなりに材料やオプションが見える状態にしてスタートラインを揃えておくことが重要で、そうでないと変な方向に話が逸れたあげく本質的な議論に至らないうちに時間切れになってしまったり、どう考えても適切でないところに落ちてしまったりする。
自分の最適解と思われるところへ導くために結論めいた選択肢だけを用意するということをやると、浅い考えで結論に飛びつくだけとなるので、何度やっても経験値が貯まらない。
ということで、最近は選択肢を並べることを目指すのではなくて、解を出すためのパラメータを漏れなく拾い出すことを心がけている。自分のイメージでは、各パラメータはこんなふうなスライダで、その案件ごとの強弱がつまみの位置で表現され、複数のパラメータのスライダの状態を総合的に見たものが最適解というところ。
どうやって『総合的に』見るんだ、という問題はあるのだが、それよりも先に、パラメータとしてこういう要素がある、ということを俎の上に載せておくことの方が重要で、パラメータの数が1や2ということは日常生活でだってあり得ないくらいだから、頭の中でこれをやると、脳はどうやら一度に複数のパラメータを処理することが苦手なようで、1つや2つで結論を出したがる傾向があり、これが盲点につながってちっとも最適でない答えがさも適切であるかのように勘違いしてしまう。
特許係争で言えば、パラメータとしては、以前に書いた特許の強さというか、事件のスジというか、合理性というか、みたいなものに始まって、裁判地や裁判官、原告や自社の代理人、相手方会社のタイプやこれまでの振る舞い、被疑侵害製品の販売ボリューム、などなど。
Reasonable? Nuisance? - 知財渉外にて
直感的に、このケースはこう対応するのが最適、と思うことも多いのだけれど、それはなぜ?とちゃんと立ち止まって筋道を立てて説明できるようにして置かないと、実は単なる思い込みじゃないのか?というジャブに耐えられない。と、最近過去のケースの取り扱いに自らジャブを入れつつ思うのだった。限られたリソースでどこまでやれるのか、ということはもちろんあるのだけれども。