知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

若手のギモン(7):外国出願時のフィードバック

色々試行錯誤の中、外国出願を国内出願の担当事務所とは異なるところに依頼してみたりしている。

このような外国出願の翻訳原文の納品時、「記載不備の拒絶理由を招来する可能性がある記載が基礎出願に存在する」旨のコメントがあった。国内出願の明細書作成時にも生かせるようにと思い、グループ内に情報共有した。熱心に読んでいた若手2号君、

あの、そもそも、米国出願を依頼する際に、
『この国内出願を基礎として、米国特許として最も適切な形にして下さい』
という依頼の仕方ではいけないんでしょうか?

結果、ちゃんと優先権主張ができる範囲で『適切な』米国出願原稿ができあがってくるのであれば、問題はありません。が、一体それが『適切かどうか』を誰がどうやって判断するわけ?丸投げするの?出願人は当社なんだからさ。チェックができるような依頼の仕方をしないとね。(ちなみに2号君はまだ外国出願を担当したことはありません)

およそ国内出願時に「海外も想定して明細書を作成しています」という触れ込みであっても、やはり優先されるのは国内であり、作成者の意識も外国出願にチューンされたりはしていないから、国内明細書の日本語が翻訳の原文として適切である可能性はあまり高くない。

よって、国内明細書から中間生成物たる翻訳原文を経ずに直接米国用の英文原稿を作成されると、(a)日本語に忠実過ぎて?英語として意味不明、だったり、(b)『適切』にされているのかもしれないが、どこをどうやったら基礎出願がこういう英語に変化するのかよくわからない=優先権主張が可能なのかどうか判断がつかない、という代物ができあがってくる可能性がある。どちらにしても、当社の担当のレベルが高いわけではないので(英語能力にしても外国出願実務の経験値としても)、上記のような結果物を抱えて途方に暮れるということが多かった。

そこで、まずは、英語にする前の段階で、翻訳基礎としてふさわしい日本語に修正をしてもらう。その際、基礎明細書からの変更点については、いちいちコメントをもらう。修正の方針についても全体のコメントをもらう。そうしておいて、日本語の状態でGOをかければ、次に英文原稿が来たときには、日本語から英語に『適切に』訳されているかに集中してチェックすればよい。手戻りも少ない。

しかし、このような方針で臨んでいるにもかかわらず、特に国内・海外をスルーで同じ事務所に頼むと、翻訳原文と英文がほとんど同時に出てきたりして、さっぱり趣旨が伝わっていないことがあり、けっこうガックリ。だからねぇ、当社のリソースをそんなところに割いてる余裕はないんだってばさ。

ともあれ、このような趣旨で出てきた翻訳原文の納品時、修正コメントがついてくるのは、主としてこんなところか。

(1)日本語ではおそらく問題ないが、このまま訳すと誤解がある(特定ができない、意味が複数に解釈できるなど)ような文章。論理がジャンプしていたり、話の整合性が取れていない場合もある(読み飛ばしていると気にならないが、よくよく読むと日本語でも厳密には意味が通らない。しかしおそらく日本の審査官は読み飛ばすだろうと推測される)。
(2)米国等の実務に照らすと、拒絶理由の可能性があるので予め変更した方がいい箇所
(3)記載に誤りがあり、修正が必要な箇所(補正可能な範囲内の場合も、新規事項の追加になる場合もある)

(3)については、基礎出願側にも手当が必要になるので、フィードバックは欠かせない。国内優先の必要が生じることもある。こちらとしてはなんで国内出願時にできてないかなぁ、という気持ちが生じるのも仕方がないところだが、とはいえチェックしてOK出してもいるのでなんとも言えない。

(1)については、そこまで厳しく見る必要があるのか?という話もあるのだろうが、OAに耐えられる明細書であることを第一に考えれば、曖昧なところは残さないのが鉄則。翻訳を経ることによって、不明瞭な部分が拡大されてしまうような気がする。特に、出願時現地代理人レビューなくそのまま出願してしまう実務が主流であるため、OAが発せられたとき、特許庁も現地代理人もさっぱり発明を理解できていなくてそこでものすごい手間が発生したりする。

(1)や(2)を国内出願時にどの程度見越して精度を上げておく必要があるのか、というのは実は結構難しい。全ての特許事務所の全ての担当者が同等レベルの納品をしてくれれば悩む必要はあまりないのだろうが、なかなかままならず、かといって、出願人サイドで精度を上げるだけのチェックができるか、そもそも高い品質の明細書を書いてもらえるだけの材料をちゃんと提供しているかというとこれもまたお寒い状況があったりする。悩ましいところである。