知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

弁ク判例勉強会2009年4月

今回の研究会で取り上げたのは、商標の拒絶審決の取消訴訟と特許の拒絶審決の取消訴訟である。

【商標】CUBS事件
平成19年(行ケ)10061

H12.10.13 本件商標出願
H14.4.16 拒絶査定
H14.8.15 拒絶査定不服審判
H18.9.26 拒絶審決
H19.8.8 審決取消判決

メジャーリーグのシカゴカブスをご存知だろうか。日本人選手の活躍も増えているので、野球好きの方以外でも名前を耳にしたことはあるのではないか。しかし、そのロゴまで即座に浮かんでくる人、ロゴを見て、「ああ、これはシカゴカブスのだ」と即答できる方はどのくらいの割合だろう。そして、出願時(平成12年当時)はどうだったのか。地元では、中日ドラゴンズの主砲だった福留選手が行った先として最近有名になったけれども。

私自身は、名前は聞いたことがあったが、上記の本願商標を見たとき、「ん?ユービーエス?」と読んだのだった。審決や裁判での特許庁の主張にもあるように、外側の円と内側のCが同程度の太さになっているので、Cが文字の図形化というより、円弧に見えやすい。これは、カブスのHPを見ていただければわかるように、本物のロゴでは外枠の円は青、内側のCは赤になっているため枠と中が区別されて視認されるのに対し、出願商標が白黒のためにそうなってしまう感が強い。実際、過去には外円がCよりも細いタイプのロゴが登録されている。

で、特許庁の審査・審決を通じた判断は、引用商標「UBS」と称呼同一で4条1項11号拒絶。理由は、(1)本願商標は、図形化されたCとUBSとが不可分一体とは認識されず、「ユービーエス」の称呼を生じる。また、(2)これがシカゴ・カブスのチームロゴとして直ちに理解されるほど広く認識されるとまでは言うことができない。よって、本願商標と引用商標との「概観及び観念の差異を考慮しても」称呼を共通とする類似の商標である。

裁判所の判断は、引用商標と本願商標とは称呼が類似しない。理由は、(1)本願商標は、シカゴ・カブスのロゴとしてわが国において相当程度知られている。(2)アルファベットの先頭のCを他の文字を囲む形状で大きく標記する例は少なくない。(3)引用商標の権利者と原告間で登録について合意が取られていることから、引用商標権者も互いに出所混同を来たさないと認識している。従って、本願商標は、「C」部分と「UBS」部分とを一体と理解して「CUBS」すなわち「カブス」と認識するのが自然であり、本願商標からは「カブス」の称呼のみが生じ「ユービーエス」の称呼は生じない。

判例70選のコメントにもあるように、特許庁と裁判所では類比判断のアプローチが異なる。特許庁では、商標の外観を観察し、常に全体が一体不可分のものとして認識されるとは言いがたいとして類比判断を行っている。これに対し、裁判所では、まず図形商標の周知性の度合いを認定し、それによって不可分一体の範囲を設定してから類比の検討を行っている。要するに、裁判所では使用に関する実情をできる限り考慮するが、特許庁では、取引の実情も考慮はされるものの、外観・称呼・観念という定型的部分でまず判断している。

特許庁で取引の実情を最大限考慮していては、出願商標の類似とされる範囲が予測しがたくなってしまうため、安定性という意味で、特許庁としては、現在のアプローチでよいと思う。そして、本件のように特段の事情がある場合には、審判・訴訟へ持ち込んで判断を仰ぐという形になればよい。評者のコメントも同旨であるし、2009年3月号のパテントに掲載されている商標についての座談会の中でもそのような趣旨の発言がなされていた。但し、特許庁段階と裁判所で主張の一貫性は保てるようにする必要がある。

1つ疑問なのは、本件は審査はともかく審判段階ではもうすこし実情を加味して登録としてもよかったのではないかということである。審判に上げればひっくりかえるケースは割りと多いように思うのだが。あまり商標実務はやっていないのでその辺の感覚はいまひとつよくわからない。


【特許】PWM調光事件
平成18年(行ケ)10488
(不服2005-4644)

技術内容が私には結構難しく、引例も多くて読むのに苦労した割りに、裁判での結論は裁判所が出願人の主張を「善解」して納めてしまっているので、あまり参考にならず。ポイントは組合せの技術的困難性、要するに阻害要因があるかどうかで、「なじまない」という裁判所の表現をどのように捉えるかになってくる。今後もこの線に沿って主張ができるのか、有効なのかはやってみないとわからない、という感じである。