知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

若手のギモン(8):出願前公知

週1ペースでブログネタにしようと思っていたのに最近質問がないな〜と思っていたら、そんなオーラが出ていたのか(笑)、今日は久し振りに若手2号君から質問があった。

当社では、製品に実装する発明の出願をする場合、出願期限を製品発表を基準に決めてると思うんですが、製品発表って、効果をうたう場合が多いじゃないですか。
発明の構成までは発表の対象になってないですよね。
で、出願の内容と発表される内容が同一でなければ公知にはなりませんよね? 

『うん。それで正しいよ。』

そうですよね(深く頷く)。安心しました。
でも、出荷じゃなくて発表前に出願するようにしているのは、どんな発表がされるかわからないからですか?

『そう。発表するのは、うちじゃなくて販促だからね。どんな発表をするのか、こちらでコントロールするのは基本できないし、こんな発表します、と言っておいて本番になったら違ってた、なんてこともよくあるんでね。安心していたら実は発表されていた、では目も当てられないでしょ。』

そ、そうですか。そうですね。

(そうなんだよ。社内の人を信じてはいけない、というのも変な話だが、ことの重大性が分かってなくて、悪気なくその場で変更してのける人たちなんだよ・・・。そういう人たち相手にことの重大性を教育して回るだけのリソースがありませんし。)

『それから、製品発表自体が審査段階で問題になることはないだろうけど(製品についての雑誌記事とか、ネットの試用レポートとかが非特許文献で引かれることはあるけどさ)、権利行使の段階になって、無効審判でもかけられて、証拠としてその製品発表をもちだされるかもしれない。もしそうなったときに、それは確かに出願前ですけど、その発表内容では発明の実体を含んでいませんから、出願前公知には該当しません、ということを、自分で証拠を出して主張する必要が出てくる。そんな手間とコストはかけたくないよね?だから、安全を見て、発表前に済ませておくのが基本です。』

なるほど。そんなことにもなるんですね・・。

『だから、この仕事では、いつも、実体面と、手続面の両方を考える必要があるんだよね。実体面が問題ないとしても、それを担保するための手続がいかに確実に、手間とコストをかけずに、楽に、ミスを招く可能性が低くできるか、ということも、同じくらい重要だということを覚えておいて。』

わかりました。

『だから、今回の例でいえば、例えば、製品発表の直前になって、出願すべき発明が漏れていたと言うことが発覚したような場合は、発表内容に決して出願内容が含まれないように、事業部に念押しをして、発表前に販促にも確認取って、コントロールしながら出荷前までになんとか出願が終わるようにする、ということはやることがあります。でも、それって、イレギュラーで、そんなこといつもやってたら保たないでしょ?だから、事業部には、こういうことがないようにして下さいね、と念を押すし、ことあるごとに、いまどんな製品開発してるの?と水を向けて、落ちがないようにしていく努力もするわけです。もう少し仕組みで動かしたいんだけどねぇ。まあ、追々。』

そうですね!頑張ります!

なんというか、中身はオッケーでも、それがオッケーになるようにどうやって担保するかという方が実は難しかったりするんだが。そうはいっても、いかに外堀を埋めるか、それを実現するために、どのくらいのことをしなければいけないかについて、瞬時に理解できるようになる、そして、それを元に、どう動くべきか、仕組みをどう作っておくかに発展させるには、やっぱり経験が必要なのだろう。とはいえ、年数だけ積んでいても、アンテナを立てていないと、いつまで経っても抜けや漏れが多いということになる。手続の重要さは、ことあるごとに強調してもしたりないと思う。