知財渉外にて

2008年3月~2014年9月までの間、知財渉外ネタを中心に書いてきました。

ロクラク事件控訴審

「ロクラク事件」の控訴審判決が出た。既にあちこちで取り上げられて話題になっている。企業法務戦士の雑感で、「潮目が変わったか?」と言われているように、今までの流れをひっくり返す逆転判決である。

被告・控訴人の日本デジタル家電は、ハードディスクレコーダーであるロクラクII(親機ロクラクと子機ロクラクからなる)を販売したりレンタルに供したりしている。レンタルロクラクの場合、親機ロクラクは被告の用意した場所に設置され、子機ロクラクがユーザーに提供される。ターゲットとなるユーザーは、主に海外居住者で、海外にいながら、国内に設置された親機ロクラクに録画予約を入れ、録画されたテレビ番組を子機ロクラクにムーブして、再生視聴することができる。このレンタルサービスが、著作権侵害(複製権侵害)とされたもの。仮処分、一審と被告が負け(=侵害)ている。

一見すると、録画をしているのはユーザーで、自分が見るために録画しているわけで、ごく普通に行われている私的複製の範囲のように見える。当然、ロクラクIIのセットを自分で購入して、親機ロクラクを日本の実家に置き、子機ロクラクを海外の自宅において、録画したものを再生する、ということであれば、何の問題も起こらない。

問題は、親機ロクラクの設置場所を用意して、それが稼動するように整備して、滞りなくちゃんと録画が行われるようにメンテナンスするところまでサービスをすると、ユーザーが自分でやっているのとは話がちょっと違ってくるんじゃないの?といわれることだ。もちろん、業者としては事業としてやっているので、それを私的複製だとされたのでは著作権者としては文句が付けたくなる、という構図である。

特許法ならここで間接侵害(特許法101条)ということを考えるのだろうが、著作権法には、間接侵害の規定がない。だから、著作権では間接的な教唆・幇助行為は責任がない、と言えなくもない。が、今までの裁判例の積み重ねで、このような場合にも一定の範囲で責任が認められている。これがいわゆる「カラオケ法理」で、このあたりは、著作権の間接侵害に関する弁護士の松島淳也氏の記事が参考になる。

カラオケ法理は、クラブキャッツアイ事件で、カラオケスナックが、「店内にカラオケテープを用意し、カラオケ機器を操作して客に歌唱させた」ことをもって、音楽著作物の利用主体だと認定されたことから発展してきたもの。管理・支配が認められることにより、主体と認定され、侵害とされるという判決が続いている。

ロクラク事件においても、原審では、サービスの目的が、海外にいるユーザーに、日本のテレビ番組の複製物を取得させることであり、設置場所が被告の管理下で、そのメンテナンスも被告が行っていたことをもって管理支配していたと認定されている。上記松島弁護士の記事で指摘されているように、ユーザーにとって利便性の高いサービスにすればするほど管理・支配性が備えられやすくなるという結果になる。MYUTA事件でも、同様の傾向が見られた。

ところが、ロクラク事件控訴審では、

そうすると,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。

利用者が親子ロクラクを設置・管理し,これを利用して我が国内のテレビ放送を受信・録画し,これを海外に送信してその放送を個人として視聴する行為が適法な私的利用行為であることは異論の余地のないところであり,かかる適法行為を基本的な視点としながら,被控訴人らの前記主張を検討してきた結果,前記認定判断のとおり,本件サービスにおける録画行為の実施主体は,利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず,控訴人が提供する本件サービスは,利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境,条件等を提供しているにすぎないものというべきである。

として、管理支配性を認めなかった。とすると、今まで、許諾なしでやるには、ユーザーが自分でやるのと同視できる程度の利便性の悪いサービスが限界とされてきた実務的な常識が変わってくる可能性がある。ここまでセーフ、ここからアウト、というラインの位置がずれたかな?ということだ。

判決の最後の小括で、駒沢公園行政書士事務所日記で大塚先生がおっしゃるように、かなり政策的な判断を示しているのは、フェアユースの論議がかまびすしくなってきた昨今の状況と無関係ではないような気もするし、今後他の事案がどうなってくるかも含め、この分野、目が離せない。

かなり影響が大きいので、被控訴人側は上告するのではないかと思うけれども。